2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト多能性幹細胞の細胞死・生存をモデルとした細胞接着情報の細胞内伝達機序の解明
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23770237
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大串 雅俊 独立行政法人理化学研究所, ヒト幹細胞研究支援ユニット, 副ユニットリーダー (00462664)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 発生・分化 / シグナル伝達 |
Research Abstract |
申請者は、ヒトES細胞において、Rho/Racの活性制御因子Abrが細胞接着状況に応じた活性化を受けることを見出しているが、その制御機構に関してはほとんど分かっていない。本研究では、Abrの細胞内局在とそのダイナミズムを解析し、またAbr結合分子を網羅的に探索することにより、Abr活性制御の分子機構の解明を試みている。 Abrの細胞内局在を明らかとするために抗Abr抗体の作製を試みた。4つのペプチド抗原を作製し、それぞれウサギ2羽、モルモット2羽に免疫して、合計16種の抗血清を得た。それぞれをヒトES細胞株KhES-1で免疫染色を行ったところ、12種の抗血清でシグナルが検出できた。これらをさらに精製し、さらにKhES-1細胞を用いて評価した結果、2種の抗体でシグナルが検出できた。現在この抗体が内在性Abrを検出できるのかどうかにつて、Abrノックダウン細胞を陰性コントロールとして用いて、性能評価を行っている。 また、ライブイメージング解析に向けて顕微鏡システムの改良を行い、蛍光分子の挙動を秒単位で観察できるような実験条件を整えた。平行して、H2B-ECFPとvenus-Abr発現ベクターを作製し、トランスポゾンシステムを応用してゲノムに挿入し、H2B-ECFP/venus-Abr発現ヒトES細胞群を調製した。 ヒトES細胞におけるAbrの活性制御のメカニズムを明らかとするため、Abr結合分子の探索を行った。タグ標識したAbrをKhES-1細胞に発現させた後に免疫沈降を行い、共沈してきた分子を質量分析により同定した。3つの候補分子が得られたため、それぞれの抗体を入手し、免疫沈降により内在性Abrとの結合を検討した。しかし、現時点ではどの分子も内在性Abrとの結合を検出できていない。この3つの候補分子に関しては擬陽性である可能性が高いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究遂行に必要な実験材料(抗体や蛍光分子発現ヒトES細胞)の調製と実験系の整備(ライブイメージング技術の改良)は順調に進行した。特に抗体に関しては、まだ性能評価段階ではあるが、特異的な局在を示唆する興味深い染色像が得られている。また、申請時には予定していなかったが、レンチウイルスベクターを応用して、薬剤刺激依存的にshRNA発現を調節できる実験系の構築に成功した。現在では任意の分子を任意のタイミングでノックダウンできるようになっており、機能阻害実験がより精密に行うことができるようになった。さらに、トランスポゾンシステムを導入することで、比較的短時間でかつ容易にヒトES細胞の恒常発現群を得る技術を確立できた。この技術により、様々な蛍光分子を発現する細胞群を調製できるようになり、一過性発現系では難しかった長期間のライブイメージングを行うことが可能となった。また、トランスポゾンシステムを応用した遺伝子導入技術により、薬剤刺激により発現量を調整した遺伝子発現誘導が可能となったため、過剰な発現量に起因した非特異的な現象を低減することができるようになった。Abr結合分子の探索に関しては、少なくともAbrを過剰発現させた場合の結合分子を同定することはできている。現時点ではこれらが内在性Abrと相互作用するというデータは得られていないが、発現量を内在性Abrと同等に調製して同様の解析を行う、あるいは、今回作製した抗体を用いて内在性Abrによる免疫沈降を行うことで、より有力な候補分子を絞り込むことができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、今回作製したAbr抗体の抗原特異性と基本性能を検証を進める。抗原特異性に関しては、RNAiを用いたAbrノックダウン細胞を陰性コントロールとして検証を進める。現時点で免疫染色には使用可能であると考えられるが、免疫沈降にも使用可能かどうかを確認する。その後、ライブイメージング解析によるvenus-Abrの細胞内挙動との相関を確認しながら、内在性Abrの細胞内局在と細胞接着との関連を検討する。また、今回抗原に用いた配列はマウスAbrでも保存性が高いので、マウスAbrを検出することが可能と考えられる。まずはマウスES細胞やマウスEpiStem細胞での反応性及び細胞内局在を確認する。さらに、マウス初期胚における局在を検討し、とくにICM組織とepiblast組織での局在の違いの有無を確認する。 Abr結合分子の探索に関しては、過剰発現系を用いた免疫沈降法では擬陽性が得られやすいため、内在Abrと同等の発現レベルに抑えたタグ標識Abr発現細胞の調製を行い、再度免疫沈降/質量分析を行う。また、作製抗体が免疫沈降に使用可能であれば、この抗体を用いた内在性Abrの免疫沈降/質量により結合分子を同定する。 結合分子の細胞内局在と細胞接着との関連を確認した後、分子間結合によるAbrの局在変化や活性変化が認められるかどうかを検討し、接着状況に応じたAbr制御の分子的実体を明らかとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
分子生物学試薬としては、cDNA/shRNA発現ベクター作製のための制限酵素やPCR関連試薬、抗体やプラスミド/RNA抽出キットなどを含む。プラスチック製品としては、遠沈管やフラスコなどのほか、培養シャーレや培養液ボトルなど培養関連のものにも使用する予定である。培養試薬としては、基本培地やリコンビナントタンパク質、各種阻害剤等の添加物など、細胞培養のための消耗品に使用する予定である。実験動物のための経費は、マウス初期胚を得るために妊娠マウス購入費に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)