2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト多能性幹細胞の細胞死・生存をモデルとした細胞接着情報の細胞内伝達機序の解明
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23770237
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大串 雅俊 独立行政法人理化学研究所, ヒト幹細胞研究支援ユニット, 副ユニットリーダー (00462664)
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Keywords | シグナル伝達 / 多能性幹細胞 |
Research Abstract |
ヒトES/iPS細胞はin vitro環境下で無限に増殖でき、また個体を構成する全ての細胞へ分化する能力を備えた多能性幹細胞である。ヒトES/iPS細胞がin vitro環境下で生存し、活発に増殖することは、医療的・産業的応用の必須条件となると考えられる。ヒトES/iPS細胞の生存と増殖は、個々の細胞同士の接着に厳密に依存しており、接着維持機構の破綻は細胞死を導く。研究代表者らは、ヒトES細胞の分散操作時に起こる細胞死の分子機構解析を進める過程で、細胞間接着の異常により活性化されるシグナル伝達経路のメディエーターとしてRho-GEF/Rac-GAP活性を有する分子Abrを同定した。本研究では、Abrの機能解析を切り口とし、ヒトES細胞の生存を保証する新たなシグナル伝達経路の解明を目指した。 まず、レンチウイルスベクターを用いた誘導型shRNA発現システムを導入し、Abrノックダウンを薬剤依存的に誘導できるヒトES細胞を調製した。この細胞を用いてAbrノックダウン細胞の経時観察を行ったところ、Abrは細胞間接着を維持した通常培養条件下ではヒトES細胞の生存に関与しないことがわかった。一方で、ドキシサイクリン添加後、ヒトES細胞の増殖が著しく阻害されることを見出した。また、新たにAbr特異的ポリクローナル抗体を作製し、これを用いた免疫染色解析によりAbrの細胞内局在を検討したところ、細胞質での比較的均一なシグナルに加え、一部のAbrの中心体への局在が認められた。これらの結果から、Abrは細胞接着情報の有無に応じて異なる生理的役割を担う可能性を示すものと考えられた。つまり、隣接細胞との接着の喪失を感知して活性化し、細胞死を誘起する機能と、細胞間接着存在下に細胞増殖を保証する機能を有していることが示唆された。
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