2011 Fiscal Year Research-status Report
生物個体における組織の相対的なサイズを制御する分子メカニズム
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23770258
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
林 貴史 国立遺伝学研究所, 個体遺伝研究系, 助教 (50553765)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 相対成長 / yorkie / microRNA / bantam / dachshund |
Research Abstract |
成虫原基間の相対サイズに関する研究については普遍的な増殖因子である Yorkie(Yki)と結合する新規の転写因子の同定を試みた。そしてDistalless、Dachshund、Trachialess、Spinless、Nubbin、Rotund、Aristaless等のYki結合活性を免疫沈降実験により検証した。その結果上記の因子のなかではDachshundのみが強い活性を示した。またDistallessに関してはTab2を介してYkiと結合する可能性が考えられたが、これに関しても明確な活性は認められなかった。現在さらにSine oculisとEyes absentにかんしても同様の実験を行っているが、とりあえずDachshundに関して明確な活性が認められたことから、今後はDachshund-Yki複合体の成長における役割に関してさらに深く解析する予定である。 また翅原基内の区画サイズに関する研究に関しては23年度はRNAi/GS ラインを用いたスクリーニングを行う予定であった。そして強制発現系であるGSよりもむしろ遺伝子破壊であるRNAi実験を優先的に行う予定であった。しかしながらRNAiに関してはその効果が弱いこととoff target問題があることが欠点であった。しかしながら現在ハーバード大学と国立遺伝学研究所において、これらの欠点を劇的に改善するsiRNAライブラリーの作成が進んでいることから、遺伝子破壊に関してはこれらのライブラリーが利用可能となった時点でスクリーニングを開始するのが得策と考え、現時点では実験を保留している。また強制発現実験に関しては原因遺伝子の特定に至らない物が多いが、その中でマイクロRNAであるmir276aがこの過程に関わる可能性が示唆されたので、今後はmir276aの役割についてさらに検証して行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成虫原基間の相対サイズに関する研究については、予定通り免疫沈降実験がほぼ終了し、新規のYki結合性転写因子としてDachsuchundを同定することが出来た。この実験に関しては当初はより多くの因子がYki結合活性を示すのではないかと考えていたが、予想に反してただ1つの因子しか同定出来なかったのは残念である。この結果がin vitro実験系の不完全性によるものか、生体内の相互作用の結果を正しく反映したものかは、現時点では明らかではないが、いずれにしても、Dachshundという脚原基の成長にやパターニングにおいて重要な役割を果たしている因子がYkiと相互作用を示すという結果は興味深い。Dachshundはクローニングされた当初は転写因子であるかどうかも不明な遺伝子であったが、その後DNA結合能を有することが示され、さらに最近になってその結合配列も明らかになってきてた。そこで今後はまずはDachshundがbantam発現制御領域に結合するか否かを調べ、さらにbantam依存的な成長制御に関与しているのかどうかを明らかにすることにより、この相互作用の意味についてさらに深く追求する予定である。 翅原基内の区画サイズに関する研究に関してはRNAiスクリーニングを後回しにした部分で遅れが見られるが、RNAiの欠点を補ったsiRNA系統を使用することにより、スクリーニング効率は大幅に改善されることが期待される。また組織の成長に関しては現在までにmicroRNAであるbantamの機能が知られていたが、今回それに加えmir276aもこの過程に関与していることが示唆されたことは興味深い。そこで今後はmir276aの生体内における機能を精力的に調べて行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の展開については、現時点では大幅な変更は必要なく、基本的に当初の計画通りに研究を行う予定である。ただしRNAiスクリーニングに関してはsiRNAライブラリーが利用可能になった時点(おそらく今年度中にある程度は利用可能になると予想される)で開始するため、不確定な部分が残る。またYkiに関しては詳しくは述べていないが、23年度の研究から、成長以外の過程においても重要な機能を果たしている可能性を示唆する結果が得られたため、そのような点についてもあわせて解析を進めたい。上記2点が計画のマイナーな変更点である。また、研究を計画した時点では明らかでなかった具体的な遺伝子名としてDachshundとmir276aが23年度の実験結果により研究対象として特定されたため、今後はこれらの成長における機能を解析することになる。 上記以外の点に関しては当初の研究計画の通りであり、特にbantamレスキュー系を確立することは非常に重要である。そしてmir276aに関する研究の進展次第では、これと同様な実験をmir276aにも適応することを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画に記した研究を行うにあたり、特に新たな機器等を購入する必要はない。その一方で組織学実験(免疫染色)、分子生物学実験(DNAクローニング等)、生化学実験(免疫沈降実験等)などを行うための消耗品が必要となるため、研究費のかなりの部分は消耗品の購入にあてる。またショウジョウバエ飼育のための餌、プラスチック瓶等も継続的に必要であり、ストックセンターからのハエの購入代金にも充てる。また一部は学会参加のための旅費として使用する。
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