2011 Fiscal Year Research-status Report
Wnt/平面細胞極性経路のコア分子によるアクチン細胞骨格および細胞接着の制御機構
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23770260
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
甲斐 理武 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師 (30572573)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 初期発生 / Wnt/平面細胞極性 / 細胞接着 / 細胞骨格 |
Research Abstract |
研究目的として掲げた「アクチン細胞骨格および細胞接着の制御機構」のうち,細胞接着に関与すると考えられる paraxial protocadherin (PAPC) に関する研究から,「細胞接着の制御機構」の詳細を明らかにした. まず,アフリカツメガエル胚で PAPC の蛋白質レベルでの調節を調べたところ,原腸胚初期では PAPC は中軸中胚葉の細胞膜上に存在したが,初期神経胚までに分解を受け,中軸中胚葉の細胞膜から排除されることが分かった.そこで,この PAPC の調節の分子機構をさらに解析した.その結果,PAPC は GSK3 によるリン酸化と,beta-TrCP によるリン酸化依存的なユビキチン化という修飾を受けることを見いだした.PAPC はエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれるが,原腸胚初期の中軸中胚葉では,脱ユビキチン化酵素である TNFAIP3 が PAPC を脱ユビキチン化し,その結果 PAPC は細胞膜にリサイクルされ,細胞膜に局在することを観察した.一方で,神経胚初期では,TNFAIP3 の働きが抑制されており,ユビキチン化された PAPC はリソソームによる分解を受けることを発見した.このような PAPC の巧妙な制御機構を通した細胞接着の調整は,アフリカツメガエルの初期発生に必須な役割を果たしている. さらに,予備的なデータとして,PAPC と GSK3,beta-TrCP の会合を促進する分子として,Wnt/平面細胞極性(PCP)経路のコア分子である Prickle を見いだした.Wnt/PCP 経路は様々な生物学的局面で細胞運動を制御することが分かっているが,その詳細な分子機構は不明である.このデータは,Wnt/PCP 経路による細胞接着分子の直接的な調節という,まだあまり知られていない機構を明らかにする糸口となるであろう.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度より自然科学研究機構・基礎生物学研究所から大阪市立大学大学院・医学研究科へと所属が変更になり,その結果研究のスタートはやや出遅れた.しかしながら,旧所属との連係により,課題として掲げている「アクチン細胞骨格および細胞接着」のうち,「細胞接着」についてまとまったデータを得ることが出来ている.この結果はすでに論文の形にまとめつつあり,近日中に投稿予定である.一方,「アクチン細胞骨格」の方の研究はやや遅れており,また「Wnt/平面細胞極性のコア分子」の関与についても,現在極めて興味深い予備的なデータを得て,その検証を行っている段階である.従って,現在のところ課題に対する達成度は5割弱といったところであるが,今年度はより整った環境でより精力的に研究が進められると期待されるため,おおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はまず,新たにゼブラフィッシュ飼育環境を立ち上げることを迅速に行う.そして,培養細胞を用いた細胞生物学的手法から得たデータについて,ゼブラフィッシュを用いて実際の in vivo での機能を検証して行く形を基本とする. 具体的には,まず,現在予備的なデータを得ている Prickle の細胞接着への関与について,さらなる検証を行う.培養細胞を用いて,Prickle が PAPC,GSK3,beta-TrCP の会合をどのように調節しているかを検討する.そして,その機構が初期発生,特に細胞運動において果たす役割を,ゼブラフィッシュにおいて観察する. また,Prickle に存在する様々な分子内ドメインとアクチン細胞骨格との関係を,培養細胞を用いて詳細に観察する.現在までに,Prickle のN末端が糸状仮足様の突起を誘導することを観察しており,関連蛋白質などから,その分子機構を明らかにする.そして,そのようなアクチン細胞骨格が in vivo でどのような細胞の挙動に関与しているかを,ゼブラフィッシュを用いた系で調べる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度より所属が変更になり,それまで使っていた系であるアフリカツメガエルなどが現在手近にない状況である.現在は主に培養細胞を用いて細胞生物学的解析を行っているが,その結果を初期胚で検証する系が必要である.そのため,基金化による弾力的な研究費運用の利点を生かし,150万円程度を目処にゼブラフィッシュ飼育環境を立ち上げる予定である.ゼブラフィッシュは胚操作が簡便な上,胚が透明で観察に適する,トランスジェニック系統や多様な変異体なども扱える,といった点で,この課題に適切なモデル生物である.その他必要な消耗品や,海外での学会発表などのための旅費などを使用する計画としている.
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