2011 Fiscal Year Research-status Report
嗅覚受容体遺伝子ファミリーを用いた遺伝子重複によるゲノム進化の解析
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23770271
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
新村 芳人 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (90396979)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 嗅覚受容体 / 化学受容 / 多重遺伝子族 / 比較ゲノム / 分子進化 / 哺乳類の進化 / ネットワーク |
Research Abstract |
大部分の哺乳類にとって、嗅覚は生存に必須の重要な感覚である。全ゲノム配列を用いたこれまでの解析により、嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)の数は、高等霊長類(300-400個)からラット(約1200個)まで大きく異なることが分かっている。様々な環境に適応した哺乳類のもつOR遺伝子レパートリーの多様性を明らかにするため、38種の哺乳類の全ゲノム配列からOR遺伝子を網羅的に同定した。その結果、OR遺伝子数はイルカの約10個からゾウの2000個以上まで、大きな開きがあることが明らかになった。OR機能遺伝子の数とOR偽遺伝子の比率との間には相関が見られないことから、OR偽遺伝子率はその生物種の嗅覚能力を示す指標にはなり得ないことを示した。また、高精度のゲノム配列が利用可能な13種の哺乳類間でのオーソログを同定する方法を確立し、系統ごとに無数のOR遺伝子の重複・欠失が起きたことを示した。これらの結果は、国際学会Society for Molecular Biology and Evolutionの年会で発表した。また、2種のカメのゲノムからOR遺伝子を網羅的に同定し、親水性のリガンドと結合するクラスI遺伝子が爆発的に増加していることを見出した。これまでの解析で得られた成果は、いくつかの総説や教科書の1節として発表した。また、『興奮する匂い・食欲をそそる匂い~遺伝子が解き明かす匂いの最前線~』という一般向けの単著の図書を技術評論社より上梓した。これらの解析に加え、理化学研究所の角田達彦博士らと共同で、ヒトゲノム中のホモ接合連続領域を検出するプログラムの作成を行った。その結果は、Genome Biology誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画として、(1) 哺乳類におけるORの多様性解析、および (2) 霊長類における嗅覚系の退化と色覚系との関連、の2点を挙げた。このうち (1) についてはおおむね解析は終了し、現在論文の執筆を行っている。また (2) については、新規に明らかになった霊長類の全ゲノム配列からOR 遺伝子の同定を行った。京都大学霊長類研究所の松井淳博士との共同研究により、実験的に決定した霊長類OR遺伝子レパートリーとの比較を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず平成23年度に行った多様な哺乳類のOR遺伝子レパートリーの比較解析について、論文の執筆を行う。その際、多くの近縁な生物種(哺乳類)間でのオーソログ同定法をもう少し改良する必要がある。また、カメ・ワニを含む爬虫類OR遺伝子の比較進化解析も行い、論文にまとめる。その後、いくつかの哺乳類間で、オーソロガスな関係にあるOR遺伝子クラスターの比較を行い、遺伝子重複・欠失との関連性を調べるとともに、リガンドの分子構造との関連性についても解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が約40万円あるが、このうち約21万円は平成24年4月に支払われている。残りの約19万円は、Current Genomics誌に掲載された論文の出版費用2150ドルを計上したが、出版社から請求書が届くのが遅れたためである。平成24年度は、大量のゲノムデータを保存するために、ネットワークストレージを購入する予定である。また、研究成果発表のため、アイルランドで行われるSociety for Molecular Biology and Evolutionの年会に参加予定である。その他は、プリンタトナーなどの消耗品代、英文校正費用、論文出版費用、論文別刷り代などである。
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Research Products
(11 results)