2012 Fiscal Year Research-status Report
嗅覚受容体遺伝子ファミリーを用いた遺伝子重複によるゲノム進化の解析
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23770271
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
新村 芳人 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (90396979)
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Keywords | 嗅覚受容体 / 化学受容 / 多重遺伝子族 / 遺伝子ファミリー / 比較ゲノム / 分子進化 / 哺乳類 / カメ |
Research Abstract |
大部分の哺乳類にとって、嗅覚は生存に必須の重要な感覚である。申請者らはこれまでに、様々な生物種の全ゲノム配列を用いて、嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)遺伝子の分子進化解析を行ってきた。その結果、種によってOR遺伝子の数が大きく異なることや、進化の過程でOR遺伝子の重複・欠失が数多く起きていることなどを明らかにしてきた。 それでは、重複や欠失が多数起きているOR遺伝子と、そうでないものとでは、何が異なるのだろうか?このことについて調べるため、まず高精度のゲノム配列が利用可能な13種の真獣類ゲノムからOR遺伝子を同定した。そして、系統関係の入り組んだ遺伝子ファミリーに対して、多種間のオーソログを同定する手法を確立した。この手法を適用することで、13種の真獣類がもつ1万個以上のOR遺伝子を、約800のオーソロガスなグループに分類することに成功した。 その結果、真獣類の進化の過程で遺伝子数を増加させたオーソロガス・グループは少なく、多くの場合は、重複と欠失が打ち消し合って少数の子孫遺伝子しか残していないことが明らかになった。また、重複・欠失が共になく、全ての種で一つの遺伝子が保存されているようなケースはまれであった。さらに、各オーソロガス・グループに含まれる遺伝子数と、アミノ酸配列の進化速度や結合するリガンド(匂い分子)の数との間に相関が見出された。 また、国際的カメゲノムコンソーシアムのメンバーとして、スッポンとアオウミガメの2種のカメゲノムの解析を行った。その結果、スッポンは脊椎動物で最大級のOR遺伝子レパートリーをもつこと、親水性リガンドと結合するクラスI OR遺伝子がカメ特異的に増加していることを見出した。この結果はNature Genetics誌に発表され、様々な新聞や雑誌で取り上げられて大きな反響を呼んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度以降の研究計画として、(1) OR遺伝子の重複・欠失の起こりやすさと、遺伝子クラスターの大きさや染色体上の位置との関連性、(2) OR遺伝子の進化速度や重複・欠失率と、リガンドの分子構造との関連性の二点の解析を挙げた。このうち、(2)の解析についてはおおむね完了している。(1)については、上で同定した約800のオーソロガス・グループのデータを用いて、現在解析を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、上で述べた約800のオーソロガス・グループを用いて、以下の解析を行う予定である。(1) クラスI、クラスII OR遺伝子間で、遺伝子重複・欠失率の比較を行う。(2) ゲノム上のOR遺伝子クラスターの大きさと、遺伝子重複・欠失率との相関について解析する。(3) 遺伝子重複・欠失が起きやすいOR遺伝子と、種間で保存されたOR遺伝子の配列上の特徴を抽出する。(4) 遺伝子重複・欠失率と、発現している臓器との関連性を解析する。 また、近年、ワニやヘビ、シーラカンス、多数の鳥類や魚類など、脊椎動物の進化を知る上で重要な生物の全ゲノム配列が続々と明らかになっている。申請者らは、ニワトリやカメにおいて、ごく短時間に種特異的にOR遺伝子が爆発的増加を示したケースを見出している。この点について更に検討するために、新たに利用可能になった生物種のゲノムからOR遺伝子を網羅的に同定し、哺乳類・非哺乳類間での進化ダイナミクスの違いについて明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度より本研究課題の後半に入るため、今年度は国内外の学会・シンポジウムで研究成果を発表するとともに、論文発表を行う。そのため、学会等への旅費・参加費として合計40万円、学会誌投稿料として20万円を計上した。その他は、プリンタトナーやコンピュータ関係の消耗品代、英文校正費用、論文別刷り代などである。
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Research Products
(9 results)