2013 Fiscal Year Research-status Report
嗅覚受容体遺伝子ファミリーを用いた遺伝子重複によるゲノム進化の解析
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23770271
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新村 芳人 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任准教授 (90396979)
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Keywords | 嗅覚受容体 / 化学受容 / 遺伝子ファミリー / 比較ゲノム / 分子進化 / 哺乳類 / 遺伝子クラスター |
Research Abstract |
大部分の哺乳類にとって、嗅覚は生存に必須の重要な感覚である。申請者らはこれまでに、様々な生物種の全ゲノム配列を用いて、嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)遺伝子の分子進化解析を行ってきた。その結果、種によってOR遺伝子の数が大きく異なることや、進化の過程でOR遺伝子の重複・欠失が数多く起きていることなどを明らかにしてきた。 それでは、重複や欠失が多数起きているOR遺伝子と、そうでないものとでは、何が異なるのだろうか?このことについて調べるため、まず高精度のゲノム配列が利用可能な13種の有胎盤類ゲノムからOR遺伝子を同定した。そして、系統関係の入り組んだ遺伝子ファミリーに対して、多種間のオーソログを同定する新たな手法を確立した。この手法を適用して、13種の有胎盤類がもつ1万個以上のOR機能遺伝子を781のオーソロガスグループ(OGG)に分類することに成功した。そして、それらOGG間の比較解析を行った。 その結果、(1)ゾウは2000個以上ものOR機能遺伝子をもち、それらは巨大な遺伝子クラスターにコードされている、(2)進化の過程で遺伝子重複を多く起こした遺伝子は機能的制約が緩く、より多様なリガンドに結合する傾向がある、(3)クラス2ORはクラス1ORに比べてダイナミックに進化している、ことを明らかにした。また、系統特異的に遺伝子重複を起こしたOR遺伝子が存在する一方、13種間で一対一のオーソログの関係を示すものは極めてまれであり、781個のOGG中3個しか見出されなかった。これら3個のOGGは、アミノ酸配列の保存性も極めて高いことから、有胎盤類に共通の重要な機能を担っていることが示唆された。 以上の結果は論文にまとめ、現在投稿中である。 また、クラス1OR遺伝子クラスターの発現を制御する塩基配列の同定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度以降の研究計画として、(1)OR遺伝子の重複・欠失の起こりやすさと、遺伝子クラスターの大きさや染色体上の位置との関連性、(2)OR遺伝子の進化速度や重複・欠失率と、リガンドの分子構造との関連性、 (3)多数の近縁種のOR遺伝子クラスターの非コード領域を比較によるOR遺伝子の発現制御領域の同定、の3点を挙げた。このうち(1), (2)の解析は完了し、論文として投稿した。(3)については、クラス1クラスターに対し、哺乳類間における非コード領域内の保存配列を同定することに成功した。この手法を全ゲノムに拡張することで、クラス2遺伝子クラスターの制御配列の同定も可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度なので、これまでに得られた結果を拡張して、「ゲノム中の遺伝子レパートリーが外部環境に応じてどのように変化してきたかを知る」という本課題の問いに対する回答を試みる。現在利用可能な哺乳類の全ゲノム配列は50種以上存在する。それら全ての種から全OR遺伝子レパートリーを同定し、それらをこれまでの解析で同定したOGGに分類する。そして、それぞれの生物種の生育環境と、その種のもつOGGレパートリーの比較を行う。 また、近年、ワニやヘビ、シーラカンス、多数の鳥類や魚類など、脊椎動物の進化を知る上で重要な生物の全ゲノム配列が続々と明らかになっている。申請者らは、ニワトリやカメにおいて、ごく短時間に種特異的にOR遺伝子が爆発的増加を示したケースを見出している。この点について更に検討するために、新たに利用可能になった生物種のゲノムからOR遺伝子を網羅的に同定し、哺乳類・非哺乳類間での進化ダイナミクスの違いについて明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
来年度の解析において、これまでよりも多くのゲノムデータを用いた大規模な解析を行う必要があり、これまでに用いてきたMac Book Proではスペックが足りない。そのため、次年度分と合わせてワークステーションを購入する必要がある。 90万円程度のUNIV社のワークステーションを購入する予定である。また、10TB程度の容量をもつハードディスクも購入する。
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Research Products
(8 results)