2013 Fiscal Year Research-status Report
プロモータ領域のメチル化を利用した遺伝子発現制御の進化的な獲得
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23770273
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Research Institution | National Research Institute for Child Health and Development |
Principal Investigator |
岡村 浩司 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, 室長 (80456194)
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Keywords | DNAメチル化 / エピジェネティクス / 遺伝子発現 / 原索動物 / 転写開始点 / プロモータ / CpGアイランド |
Research Abstract |
ゲノムDNAのメチル化がエピジェネティクスの一翼として、遺伝子発現制御に重要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしこのことは、動物に限れば哺乳類においてよく研究されてきたに過ぎず、魚類を含めた脊椎動物にまでおおよそ当てはまることは確認されているものの、ホヤやウニなどの無脊椎動物においては状況がかなり異なる。ヒトでは全ゲノム中の約70%のCpGサイトはメチル化を受けており、他の脊椎動物もそれに近いグローバルなDNAメチル化を受ける。一方、例えばカタユウレイボヤでは、全ゲノムの約半分に相当する領域がメチル化を受けており、しかも、複数の遺伝子を含む数kbから数百kbにおよぶ比較的長いメチル化、非メチル化領域が交互に混在することが示されている。このメチル化パターンは、よく知られたヒトゲノムとは大きく異なり、発現制御との関わりは明確になっておらず、また、真菌など単純な真核生物でも示されているトランスポゾンの抑制機能でさえ、ホヤにおいては疑問視されている。脊椎動物の原始的な特徴を残す無顎類に加え、原索動物、棘皮動物を用いた広範囲なメチル化解析から、脊椎動物と無脊椎動物の間にパターンの大きな違いがあることが分かっており、DNAメチル化を利用した巧妙な遺伝子発現制御は、進化上、脊椎動物が誕生したごく初期に起こったグローバルなメチル化パターンの変化とともに獲得されたと考えるのが自然である。本研究ではこの経緯を探ることを目的とし、脊椎動物および無脊椎動物の境界付近に位置するカワヤツメおよびカタユウレイボヤを用いてRNA-seqを利用した網羅的な転写開始点決定を行った。参照配列が存在しないカワヤツメについては独自にゲノム配列決定も行い、転写開始点下流に限らず、上流の配列も取得し両種におけるプロモータ配列の構造的な違いを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脊椎動物の進化における初期段階で存在した動物がいかにDNAメチル化を遺伝子発現制御に利用するようになったかを探るため、進化上、脊椎動物および無脊椎動物の境界付近に位置する種を用いてRNA-seqを利用した網羅的な転写開始点決定、およびプロモータ近傍のDNAメチル化解析を計画した。最初は原索動物であるカタユウレイボヤを選び、次世代シークエンサを用いて転写開始点決定を行い、この成果は、バイオインフォマティクスの国際学会で、その際に投稿された104報の中から最優秀論文賞を受賞することができた。カタユウレイボヤのDNAメチル化およびそれに関連する発現解析については、共同研究ですでにデータの取得を終了し、2013年末の日本分子生物学会年会において発表を行い、現在は論文を執筆中である。第一著者が現在指導を行っている博士課程最終学年の大学院生であり、2014年中の出版を目指している。一方、最も原始的な脊椎動物としてはカワヤツメの胚を選び、転写開始点決定のためにRNA-seqが終了した。カワヤツメについてはリファレンスとしてのゲノム配列が決定されていないため、胚を作るために用いた精子のゲノムDNAを用い、次世代シークエンサにより100万塩基対を超える程度の遺伝子領域を中心とした配列決定を行い、18,936プロモータ領域の配列を取得し、その特徴を明らかにすることに成功した。この結果についても2013年末の日本分子生物学会年会において発表を行い、現在は論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
原索動物であるカタユウレイボヤについて、ゲノム全体に渡るプロモータの位置とDNAメチル化レベルの情報が集まり、原始的な脊椎動物であるカワヤツメについてはゲノム全体に渡るプロモータの位置および近傍のゲノム配列を決めることができた。その結果、この両種の間にきわめて大きな違いがあることを明らかにすることができた。助成基金を残し、幸い補助事業期間延長が認められたため、これからの一年間をかけてカワヤツメのプロモータ領域近傍のDNAメチル化状態を、バイサルト・シークエンシングと次世代シークエンサを組み合わせた手法で一塩基の解像度で調べ、ホヤでは見られず、ヤツメウナギでは存在すると考えられるDNAメチル化による遺伝子発現制御機構が進化上、いかに獲得されたかを調べる予定である。また、DNAメチル化を利用した人為的な遺伝子発現制御に関して考察して行きたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究初年度に勤務していたお茶の水女子大学から、2年目に国立成育医療研究センターに異動になりました。本研究課題に加え、組織工学研究室の室長として、申請時には計画になかった他の研究課題も実施しなければならなくなり、研究計画のうち最後のデータ解析が完了していない状況です。 申請書の平成25年度の計画として記入した事項、つまり、次世代シークエンサで得られたデータの解析を完了させ、論文にまとめて投稿し、国際学会で成果を発表するために使用する予定です。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] Genome-wide parent-of-origin DNA methylation analysis reveals the intricacies of the human imprintome and suggests a germline methylation independent establishment of imprinting2014
Author(s)
Court F, Tayama C, Romanelli V, Martin-Trujillo A, Iglesias-Platas I, Okamura K, Sugahara N, Simón C, Moore H, Harness JV, Keirstead H, Sanchez-Mut JV, Kaneki E, Lapunzina P, Soejima H, Wake N, Esteller M, Ogata T, Hata K, Nakabayashi K, Monk D
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Journal Title
Genome Res.
Volume: 24
Pages: 554-569
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Compilation of copy number variants identified in phenotypically normal and parous Japanese women2014
Author(s)
Migita O, Maehara K, Kamura H, Miyakoshi K, Tanaka M, Morokuma S, Fukushima K, Shimamoto T, Saito S, Sago H, Nishihama K, Abe K, Nakabayashi K, Umezawa A, Okamura K, Hata K
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Journal Title
J. Hum. Genet.
Volume: 59
Pages: 326-331
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] 子宮平滑筋肉腫の分子病態の統合解析2013
Author(s)
宮田 知子, 中林 一彦, 岡村 浩司, 小林 裕明, 奥川 馨, 矢幡 秀昭, 園田 顕三, 加藤 聖子, 秦 健一郎
Organizer
第7回日本エピジェネティクス研究会年会 P-16
Place of Presentation
奈良県新公会堂
Year and Date
20130530-20130530
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