2013 Fiscal Year Research-status Report
シャジクモ藻類ヒメミカヅキモから探る植物の発生進化の分子基盤
Project/Area Number |
23770277
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
阿部 淳 中央大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10424764)
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Keywords | ヒメミカヅキモ / シャジクモ藻類 / ゲノム / 転写因子 / 発生進化 / 有性生殖 / 性決定 / 多細胞化 |
Research Abstract |
緑色植物において、「有性生殖」や「多細胞体制」など発生進化上重要なイベントはシャジクモ藻類からコケ植物への進化段階で起きたが、どのような分子基盤の多様化がこれらの発生プロセスに働いたのかは不明である。本研究では、とくに単細胞シャジクモ藻ヒメミカヅキモの転写制御因子に着目し、陸上植物への発生進化の基盤となった分子機能とその進化過程の解明を目指している。これまでに、ヒメミカヅキモの有性生殖関連遺伝子の発現を統合する性決定遺伝子の候補として、接合型(性)特異的に発現する転写制御因子(CpMinus1)が見いだされていた。本年度は、このCpMinus1遺伝子の機能解析を中心に研究を進めた。 CpMinus1遺伝子はbZIP型の転写制御因子をコードしていた。ヒメミカヅキモ両接合型細胞(+型/-型)の概要ゲノム情報の比較したところ、本遺伝子は+型細胞のゲノムには存在せず、-型細胞のゲノムのみに存在する「性特異的遺伝子」であることが明らかとなった。また、連鎖解析の結果より、CpMinus1遺伝子が-型細胞の表現型と完全に連鎖している事も示された。続いて、CpMinus1遺伝子をHSP70遺伝子プロモーターの下流で強制発現させるコンストラクトを作製し、+型細胞へ遺伝子導入した。その結果、本来は+型細胞であるにもかかわらず、-型細胞に特徴的な現象である「単独でのプロトプラスト放出」が多くの細胞で確認され、かつ一部の細胞は自家接合能力を有した。以上の結果より、CpMinus1遺伝子産物が-型細胞の性質を発揮させる能力を持っており、性決定遺伝子の1つとしてヒメミカヅキモの有性生殖を制御している事が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、ヒメミカヅキモの有性生殖関連遺伝子の発現を統合する性決定遺伝子の1つとしてCpMinus1遺伝子を同定した。陸上植物を含めたストレプト植物において性決定遺伝子はこれまで明らかになっておらず、従って本研究の成果は、植物の性決定および有性生殖機構がどのように進化したのかを明らかにする上で極めて重要な例となる。いっぽうで、+型細胞への形質転換体の結果よりCpMinus1遺伝子が-型細胞としての性能を発揮させる能力を持つ転写因子であることは確実であるものの、+型細胞としての性質を完全に打ち消す能力まで有しておらず、CpMinus1遺伝子の機能を補強するような第2の性決定遺伝子の存在が想定され、新たな課題となった。また、本研究課題のもう一つの柱であるヒメミカヅキモゲノム中の植物転写因子ファミリーの同定については、その数と種類を明らかにしてきたが、RNA-seq配列データの遅れにより各遺伝子配列の正確な推定が出来ずにいた。この点について、新たに7種の生活環ステージからのRNA-seqデータの蓄積を試みたものの、アミノ酸配列の特徴解析までには至っておらず、タンパク質系統解析および機能解析に遅れが生じている。以上の状況を加味し、本課題の進捗に対する本年度の自己評価を(3)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
別種のミカヅキモを用いた遺伝学的な解析結果から、ミカヅキモの性は-型がドミナントである事が示されている(Kasai and Ichimura 1990)。この事実と上記の結果を併せて考えれば、-型細胞のゲノム上に-型細胞の表現型と連鎖し、+型細胞の表現型を抑制するもう一つの性特異的遺伝子が存在する事が想定される。+型/-型の概要ゲノム、及びRNA-Seqの情報をもとに、-型細胞、CpMinus1遺伝子と連鎖する新たな性決定遺伝子候補の単離を試みる。また、CpMinus1については、クラミドモナスやその他のシャジクモ藻類、及びコケ植物を含めた遺伝子系統樹を作成し、本遺伝子がどの進化段階で多様化したのかを明確にする。ヒメミカヅキモゲノムからの植物転写因子ファミリーの同定に関しては、新たにRNA-Seqのデータ(Hiseq2000、ペアードエンド 101 bp, 全24サンプル)を加えてアセンブルを行い、各遺伝子配列の正確な推定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
RNA-seq配列アセンブルの問題で当初予定していた研究が実施出来ず、そのため、系統解析のために計上していたコンピューター関連(ハードウエア、ソフトウエア)の予算に対して繰越金が生じた。また、同様の理由により予算額の大きい形質転換実験の回数が予定よりも少なく、既存の試薬類で補填できたこともあり、この点についても繰越金が生じた。 RNA-seq配列のアセンブルおよび系統解析を行うためには現在使用しているコンピューター(iMac Mid 2010, Intel Core i5)ではスペック不足である。そのため、新たなコンピューター(Mac Pro, Intel Xeon E5クアッドコアを予定)及びモニタ等の周辺機器、ソフトウエアを予算として計上する。また形質転換等実験用の試薬として、金粒子など高価なものを中心に次年度予算として計上する。
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