2012 Fiscal Year Research-status Report
無声歯茎摩擦音発音時の舌尖端の機敏な動作が音源発生に及ぼす影響
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23770287
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野崎 一徳 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (40379110)
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Keywords | 国際情報交換 / フランス共和国 / グルノーブル / 乱流 / 発音 |
Research Abstract |
具体的内容: 被験者1名に対して、歯科用CTを用いて/s/発音時の口腔内形状を撮影した。得られたボリュームデータから、気道部分を抽出し三次元プリンタを用いて実体モデルを構築した。また、軟組織である、舌、口唇部分については、三次元プリンタで出力される石膏モデルの鋳型を制作し、軟性素材であるシリコン樹脂に置き換えた。すなわち、上顎、舌、下顎、口唇をそれぞれ異なる材質で構築し、コンポーネント化することで、例えば、口唇の変更、上下顎の変更、そして舌の変更を可能とするシミュレータを制作した。 次に、構築したシミュレータを用いて、生理学的な呼気流量を気道に流しこみ、発生する音の計測を行い、被験者の発する音のパワースペクトル密度とほぼ同様の結果を得た。次に、気道内の流れと発生する音との関係を調べるために、熱線流速計を用いて、気道内五ヶ所の流れの性質について調べた。これらの結果をまとめて論文を近日中に投稿する予定である。 意義、重要性: 本研究で構築した、コンポーネント化された発音シミュレータは、実際の歯科臨床等でも行われている様々な治療行為に対して、それによる形状変化、材質変化を再現した上で、流れの変化の有無、そしてそれに関係した音の変化について調査することが可能である。また、このようなシミュレータは、より高度な調音機能をシミュレートするための第一段階として必須である。 投稿予定の論文に詳細は記載されるが、これまで乱流音であると推測されてきた摩擦子音について、実際に乱流から生じている音であるという物理的裏付けが始めてなされたとおもわれる。母音ー子音ー母音発音時の舌の動作について、核磁気共鳴装置を用いて、時間的な舌の形状変化を三次元計測した結果を用いて、独自に開発したインタフェースを通して時系列の点群データに変換し、点群データから陰関数曲面を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初/s/発音時のCTデータから制作する気道から、容易に/s/音が再現できると考えていたが、CTの精度やアーチファクトの影響により、被験者の歯列印象による歯列模型を用いて、気道の歯列部分を置き換える作業が必要となった。この時、1mm以下の形状変化、特にsibilant grooveと呼ばれる、上顎と舌の接触によって作られる気道中の狭めの形状変化が、発生する音のスペクトル特性に強く影響することが分かり、発話時の舌の接触位置の空間的精度がどの程度必要か明らかとなった。 そこで、確実な結果を得るために、最初の段階として、開発中の発音シミュレータが/s/音を発声可能である必要があっが、結果として比較的高周波数(16000Hz)までの再現性を確保できた。これにより、舌の高径や動きが/s/音に及ぼす影響について考慮することが可能となった。 静的ではあるが、/s/発音時の舌の高径に段階的に近づけることで、徐々に/s/音スペクトル特性に近似していくことを、実験から確かめることが出来た。さらに、流れの特性変化を熱線流速計を直接キャビティー内に挿入することで計測できた。その際再現性について疑いを持ち、音の計測、流れの計測について計5回ずつ行ったが、十分な再現性があることが確認できた。 核磁気共鳴装置から得られた時系列の三次元気道データは、弓状断面においては128 x 128ピクセルのモノクロ8bitデータであるが、一方で水平方向には7枚が限界であった。そのため、水平方向の空間データの補間が必要となった。また、三次元形状データが時間的に変形し、時間フレームレートが核磁気共鳴装置では16回/秒の撮像が限界であったため、時間方向にもデータの補間が必要となった。そのため、ラディアルベースドファンクションとパーティション・オブ・ユニティーを用いた独自の補間アルゴリズムを考案した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在開発中の発音シミュレータの、舌挙上機能について、現在の段階的な実装から、プログラミング可能な実装に置き換える作業を行う。これにより、舌挙上の速度による影響、さらには加速度変化による影響等が、流れや、そこから生じる音に及ぼす影響について、定量的に明らかにすることができると予想される。 また、現在開発中の核磁気共鳴装置から得られる時系列三次元形状データの補完技術を完成させ、陰関数曲面から内部メッシュ生成し、時系列的に形状が変化した場合でもメッシュが潰れないよう、メッシュ生成プログラムの構築と、得られたメッシュを用いて数値計算可能なコードによる計算に挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在までの研究成果を、国際会議で発表すると同時に、著名な国際雑誌に投稿する。 現在開発中の発音シミュレータを完成させるため、アウターモデル、すなわち、数例の被験者の口腔形状について、同様のシミュレータを構築する。 本研究に関連する研究を行なっている、グルノーブル大学やメリーランド大学と、特に舌の運動と音が生じるような流れの乱れとの関連性に関して、様々な意見交換を行う。 さらに、本研究で構築しつつある発音シミュレータを、標準発音シミュレータとして様々な研究者や言語療法士、歯科医師等に活用してもらうため、レギュレーションを明確にし、データを公開する予定である。
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Research Products
(7 results)