2011 Fiscal Year Research-status Report
豊富な遺伝資源を活用した機能性成分の探索および生産性に関与する遺伝子の探索
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23780003
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
中西 弘充 信州大学, サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー, 助教 (90443001)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 桑 / 1-DNJ / D-AB1 / α-グルコシダーゼ阻害物質 |
Research Abstract |
桑葉にはデオキシノジリマイシン(1-DNJ)に代表される、イミノ糖と称される糖類似物質が豊富に含まれている。1-DNJにはα-グルコシダーゼ(αGL)阻害効果があり、機能性食品などの分野への応用が期待されている。これまでに、多くの品種の桑葉抽出液のαGL阻害活性および1-DNJ含量を調べており、品種によっては1-DNJだけでは説明できない強い阻害力価を示すことを見出した。その要因として1,4- dideoxy-1,4-imino-D-arabinitol (D-AB1)という別のイミノ糖の影響が考えられた。しかし、桑品種ごとの阻害物質の組成は詳細に調べられていない。そこで桑をイミノ糖の組成によって分類することができないかと考え、桑に含まれるイミノ糖のうち1-DNJとD-AB1について、国産品種とタイ在来品種における組成を定量的に求め、桑品種におけるイミノ糖の組成の多様性を検証した。酵素と阻害物質の特異性を調べるため、酵母由来とラット消化管由来のαGL、および、標準品の1-DNJとD-AB1をそれぞれ組み合わせた4通りのαGL阻害活性を比較した。その結果、酵母由来のαGLはD-AB1に強く阻害され、ラット由来のαGLは1-DNJに強く阻害された。桑葉抽出液においても酵母由来とラット由来の酵素で異なる阻害活性が見られた。そこで、LC-MSにより1-DNJおよびD-AB1の定量を行ったところ、酵母由来のαGL阻害活性にはD-AB1量が大きく影響することが分かった。また、ラット由来のαGL阻害活性には1-DNJが大きく影響するものの、他の物質の関与の可能性が示唆された。さらに、国産品種とタイ在来品種でαGL阻害活性を比較すると、タイ在来品種の方がより強い阻害活性を示すことが分かった。これらの結果は桑が植生する風土や、それに伴う食害虫の多様性が影響するものと示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では漢方薬の原料として用いられる桑の機能性成分に注目し、豊富な桑の遺伝資源を用いたα-グルコシダーゼ阻害物質の多様性について調査した。当初の計画では信州大学繊維学部付属農場が保有する国産品種の桑から探索する予定であったが、タイ産品種が高いα-グルコシダーゼ阻害活性を示したことから、温室栽培しているタイ産品種の桑についても調査対象とした。その結果、α-グルコシダーゼ阻害物質の多様性を知る結果に結びついた。一方で、今年度に遺伝子発現解析を行う予定であったが、実施には至らなかった点で研究に遅れが生じた。また、8月に助教に就任したことから、研究以外の業務が増えたことも研究が進展しなかった原因の1つである。
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Strategy for Future Research Activity |
α-グルコシダーゼ(αGL)は大きく2つのグループに分類される。これまで、昆虫・酵母・微生物のグループに分類されるαGLを阻害活性の測定に用いてきたが、植物・動物・糸状菌に分類されるラット由来のαGLを用いることで、よりヒトに効果的なα-グルコシダーゼ阻害物質の探索が可能になると考えられた。新たに1-DNJ・D-AB1含量とα-グルコシダーゼ阻害活性に差がある品種とない品種が判明したので、これらの品種の抽出画分のαGL阻害活性を比較することで、1-DNJ以外のαGL阻害物質を単離し、質量分析や構造解析によって物質の同定を行う。また、αGL阻害物質と品種の起源(種や産地など)を比較することで、桑の食害抵抗性獲得の動向を調査する。さらに、共通のαGL阻害物質を持つ品種で共通して発現している遺伝子を調べることで、αGL阻害物質の生産性に関与する遺伝子の探索を行う。これらの情報を利用して付加価値の高い品種を育種し、農作物としての桑の栽培を促進することで地域社会の活性化に結びつける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査対象を広げたことにより、今年度実施できなかった遺伝子発現解析を次年度の研究費に繰り越し実施する。具体的には次世代DNAシーケンサーによる遺伝子発現解析をするための試薬代や委託分析料を計上する。その他、消耗品費としてα-グルコシダーゼ阻害物質を固相抽出するためのカラムや、バイアル瓶を計上する。また、調査・研究旅費や成果発表のための旅費を計上する。あわせて、研究補助者を雇用する費用や資料閲覧代、英語論文の校閲費として謝金を計上する。
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