2011 Fiscal Year Research-status Report
植物の遠縁交雑後の世代で進むエピジェネティックな遺伝子発現変化
Project/Area Number |
23780011
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
深井 英吾 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物共生機構研究ユニット, 特別研究員 (00570657)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 遠縁交雑 / エピジェネティクス / トランスポゾン / 次世代シークエンサー / トランスクリプトーム / ゲノム / ミヤコグサ / マメ科 |
Research Abstract |
本研究では、遠縁交雑により遺伝的に離れたゲノムが接合することによって、どのようなエピジェネティックな遺伝子発現変化が生じるのかを明らかにするために、マメ科モデル植物ミヤコグサの種間交雑組換え近交系(RI)集団において生じる遺伝子発現変化の同定と、その発生様式の解析をおこなっている。 今年度は、RI集団の中から選抜した、ミヤコグサ内在のレトロトランスポゾンLORE1がエピジェネティックに活性化されている4系統と、RI集団の親3系統(ミヤコグサLotus japonicus Gifu accession、 近縁種L. burttii、L. filicaulis)の、計7系統の花から、転写の方向性を反映したRNAseqライブラリーを作製し、これをillumina HiSeq 1000により解析した。 ミヤコグサゲノムは解析され、塩基配列情報が利用可能であるが、本研究に利用している近縁種のゲノム情報はない。リファレンスゲノムが無い植物種のRNAseqの効率的な解析方法を見出す事が本研究の技術的な課題の一つであり、現在、検討を行っている。 トランスポゾン(TE) はエピジェネティックな抑制を受けている事が多い。逆に、RI系統においてTEの転写レベルの上昇が観察された場合は、そのTEに対するエピジェネティックな抑制が不全化した可能性を考えることができる。RI系統において転写上昇したTEを見出すため、ミヤコグサゲノムから抽出したTE様配列に対してマップされたRNAseqのリード数を、ハウスキーピング遺伝子に由来するリード数で標準化し、7系統間で比較した。その結果、RI系統において、親系統よりもリード数が増加しているTE様配列が複数見出された。以上から、解析したRI系統において、LORE1を含め複数のTEの活性化が生じている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、予定通りRNAseqを行いデータを得ることができ、RI系統の花でLORE1を含め複数のTEが活性化されている可能性が示唆された。これによって、遠縁交雑により引き起こされる遺伝子発現プロファイルの変動という、研究構想時に想定した現象が、解析に用いている植物材料で実際に生じていることを、部分的ではあるが確認できた。転写の方向性を反映したRNAseqのライブラリー作製の方法については、既成のキットではカバーされていない部分があり、条件検討が必要であったが、初年度の研究によりそれを終え、安定したプロトコルを確立するに至った。以上のように、現状は、次年度以降の研究の方向性を決定する上で重要な知見を得て、また技術的な課題の一つを克服した状態であると言え、研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降に取り組む課題として、まず、発現変動していたTEや遺伝子のエピジェネティックマーク等の解析が挙げられる。まずは今年度に同定した転写上昇TE様配列に関して、この解析を開始する。 次に、当初計画に挙げていたように、葉のトランスクリプトーム解析を行う予定である。これは、遠縁交雑による遺伝子発現プロファイルの変化様式が、花と葉という器官間で異なるか検証する為に計画したものである。ただし、「次年度の研究費の使用計画」で述べるように、RNAseqの反復実験が必要になる場合は、葉のデータ取得時のランと同時に花のRNAseqのデータの再取得を行う。 もう一つの課題は、リファレンスゲノム情報がない近縁種のRNAseqのデータの取り扱い方法の確定である。本年度に行った検討から、近縁種由来のRNAseqリードをミヤコグサゲノムにマッピングすることにより、種間で塩基配列が高く保存されているオーソローガスな遺伝子の解析は充分可能である事が分かった。しかしこの方法では、近縁種特異的な遺伝子や、種間で多型レベルが大きな遺伝子に関する正確な情報が得られない。それらの情報を得る為には、RNAseqのリードのde novo アセンブリをできるだけ良い精度で行う事が要求される。高精度のde novoアセンブリが可能となるよう、適切なソフトの選択と条件設定を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の大きな割合を占めるものとして、葉のトランスクリプトーム解析がある。しかし、本年度に行った花のトランスクリプトームから得た予備的な知見から、RI系統で発現変動している遺伝子の数が予想よりも多く、そのため発現変動した遺伝子の個別解析に加え、トランスクリプトーム全体としての統計的解析が必要となる可能性が考えられた。その場合、実験誤差の検定を行うため、花と葉それぞれについてRNAseqのデータ取得を複数回行う必要が生じる。それに対応するためには、一度のシークエンサーのランで異なるバーコード配列を付加した複数のRNAseqのライブラリーをランするなどの方法をとり、予算内で必要なデータが得られるように工夫する。 その他、実験試薬と植物育成にもちいる資材、国内外旅費、成果発表の為の論文投稿料・英文校閲の費用などに研究予算を利用する予定である。
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Research Products
(4 results)