2011 Fiscal Year Research-status Report
シンク・ソース能力から見た高温・乾燥耐性サツマイモ品種創出のための基礎的研究
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23780016
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
門脇 正行 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (00379695)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | サツマイモ / 地温 / 品種間差 |
Research Abstract |
現在,世界全体では人口増加に伴う今後の食料不足が懸念されている.また,同時に飼料およびバイオ燃料としての穀物需要の増加が見込まれている.一方で,国内では食料自給率の低下が問題となる中,バイオエタノール製造の増加も検討されている.このような現状を考慮すると,自給率が高くかつ飼料およびバイオエタノール原料にもなる作物の生産を向上させることが問題解決につながり,サツマイモは最適な作物と言える.一方,今後の地球温暖化による気温上昇は地温上昇と土壌水分低下を招くと予測され,収穫部位を地下部に形成するサツマイモにとって地温上昇と土壌乾燥は生育に大きく影響するものと考えられる.そこで本研究は,現存品種よりもさらに高い高温・乾燥耐性をもつ品種創出のための基礎的知見を得ることを目的とした.まず,現存の新旧品種から地温変化に伴う収量の増減が少ない品種または高地温条件下で多収となる品種を高地温耐性品種として選抜を試みた. サツマイモ新旧20品種を用い,3種のマルチ資材により地温を変化させ,栽培を行った.栽培期間中の平均地温は最大で地表面から5cmの地点では2.5℃,地表面から10cm の地点では2.8℃の差が生じた.収量調査の結果,地温に対する反応には品種間差が見られた.各マルチ区の収量の変動,すなわち地温変化に伴う収量の変動が小さい品種を有望品種として選抜するため,各マルチ区の収量の変動係数を全ての品種で求めた.その結果,変動係数10%未満の品種が3品種(ベニアズマ,ダイチノユメ,オキコガネ),10~15%の品種が4品種あった.また,変動係数の小さい品種が多収である傾向が見られた.そのため,前述した数品種は地温の変動に対して耐性のある品種であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に計画した実験内容の中で最も重要である「マルチ資材による地温制御条件下でのサツマイモにおける高地温耐性の品種間差異の検討」についてはほぼ計画通りに実施することができた.その結果から高地温耐性があると考えられる数品種を選抜することができ,来年度以降の実験に供試する品種の選定も可能となった.また,来年度から使用する温度傾斜型チャンバーとして既存のビニルハウスの改修を行った.しかし,チャンバー内でどの程度の温度勾配が実現できるのかは確認できていないため,今後確認する必要がある.また,13Cを用いた炭素トレース実験を平成24年度に行うにあたり,圃場条件下での13C供与法について予備実験を行った.供与した植物体のサンプルを分析した結果,十分な供与が行われていないことが確認されたので,炭素トレース実験については13C供与の改善方法を考案し,確認する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
温度傾斜型チャンバー(以下,TGC)内に数種類のマルチ資材を用いて畦を形成する.TGCによる気温の制御とマルチ資材による地温の制御からハウス内の栽培地点を高気温~低気温区,高地温~低地温区に区分する.気温区と地温区の組み合わせから様々な気温と地温の条件下で栽培する.温度記録計を各区間に設置し,気温および地温を測定する.同時に土壌水分計を設置し,気温および地温上昇に伴う土壌水分の変化がサツマイモに及ぼす影響についても評価する.サツマイモ収量に対する影響はシンク・ソース理論の視点から解析する.同化産物の生産部位であるソースの容量および能力は個葉光合成速度,葉面積および分枝形成から評価を行う.サツマイモの収量性を考えた場合,高いソース能力を有していても同化産物が塊根へ効率良く転流される必要があり,さらにシンク器官での同化産物蓄積能力が高くなければ高収量にはつながらない.そこで,植物体に13CO2を供与し,各器官の13C含有率を13CO2アナライザー(EX-130,日本分光)にて分析することで各器官への同化産物分配率を求める.さらに,一定期間中の塊根の乾物増加量を調査し,塊根乾物増加速度とすることで同化産物分配率と塊根乾物増加速度を合わせてシンク能力とし,塊根数をシンク容量として評価する. 平成23年度の実験で得られた結果から高地温耐性があると考えられる品種と耐性のない品種を同時に栽培した上で,前述した評価項目で評価することで高気温および高地温条件下でも高収量を達成する品種の多収メカニズムについて解析する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の助成金から47038円が次年度使用額として繰り越しとなった.その理由として東日本大震災の被害により状況によっては交付額の減額変更の可能性があるとの通知を受けたことで,年度当初から慎重な予算執行を行ったことが挙げられる. 次年度の研究費の使用予定は,設備備品として土壌水分を連続して稀有即するために土壌水分計を購入する.また,消耗品として13C供与に関する試薬や肥料,農薬およびマルチ等の栽培資材を購入する.さらに,気温を正確に測定するために小型ファンを購入し温度計付近に設置することも検討する.平成23年度の繰越額については,小型ファンの購入と13C供与方法に要する消耗品の購入に充てる予定である.得られた成果は日本作物学会(仙台市)あるいは農業生産技術管理学会(鹿児島市)で発表する予定である.調査には多大な労力と時間を要するため,調査補助として謝金も支出することを予定している.
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