2011 Fiscal Year Research-status Report
老化特異的プロモーターによりIPT遺伝子の発現を誘導した組換え花きの作成と解析
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23780025
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
中野 龍平 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (70294444)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | IPT / 老化特異的プロモーター / 花き類 |
Research Abstract |
I) PSARK-IPT組換え花き類の作成とその解析 PSARK-IPTを導入したキク‘神馬’10系統、‘精興の誠’5系統に関して、組換え体を栽培・収穫し、花持ちの調査を行った。その結果、‘神馬’では、大きな花持ちの向上は見られなかった。一方、‘精興の誠’では、切り花においてもエチレン存在下や花持ち期間の葉の黄化が著しく抑制された。また、葉の黄化は下部の葉ほど起こりやすいことが明らかとなった。このことより、下部と上部のサイトカイニン含量のバランスが下部葉の黄化に関係すること、‘神馬’では下部葉であってもサイトカイニン含量の低下が起こらないことなどが予想された。そこで、葉のサイトカイニン含量の測定の準備を進めた。 さらに、ストレスに弱いことが問題となっているキク‘カナリア’にPSARK-IPT遺伝子の導入を試み、現在、いくつかのカルスが得られている。また、カーネーションに関しては、 GFPをマーカーとした遺伝子組換えを行い、組換えカルスが得られている。今後、カルスからシュートを得るために、ホルモン組成の再検討が必要である。II) 花弁老化特異的プロモーターを用いたIPT誘導組換え花き類の作成とその解析 オートファージに関わるATG8遺伝子の一つがアサガオ花弁の老化開始時に発現量が急増することが知られている。Database解析の結果、このアラビドプシスのホモログの一つの発現も同様に花の老化時に誘導されることが分かった。このアラビドプシスATG8のプロモーター領域1.8kbの単離に成功した。さらに、Fusion PCRにより、IPT遺伝子と繋げたキメラ遺伝子(PATG8-IPT)を作成し、遺伝子組換え用のバイナリーベクターに挿入した。このコンストラクトを用い、ペチュニアへの遺伝子導入を試み、現在、15系統ほどのシュートが得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
I) PSARK-IPT組換え花き類の作成とその解析においては、計画どおり、キク2品種の葉の黄化に関して、切り花レベルでの比較を行うことができた。また、切り花の下部葉において黄化が発生するなど、新たな知見が得られている。これらの知見は、今後のサイトカイニンレベルでの調査において大きな指標となる。また、キク‘カナリア’およびカーネーションに‘ノラ’においてもカルス段階ではあるが遺伝子の導入に成功している。 II) 花弁老化特異的プロモーターを用いたIPT誘導組換え花き類の作成とその解析においては、ATG8プロモーターのアラビドプシスからの単離に成功し、IPTと繋げたバイナリーベクターの作成を完了している。本ベクターは、様々な、花き類への導入に用いることができる。さらに、予定どおり、ペチュニアへの遺伝子導入を行い、すでにシュートが得られている。今後、この組換え体を育成・解析することで、予定どおりPTAG8-IPT導入個体における植物体および花弁の老化に関して、研究を進めることができる体制が整えられている。 以上より、おおむね順調に進んでいると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、老化が抑制され、ストレスに強い花き類を作成し、花持ち期間が長く、低コスト・省エネの流通を可能とする切り花の提供を目的とする。昨年度までの成果を踏まえて以下のように研究を推進する予定である。I) PSARK-IPT組換え花き類の作成とその解析:サイトカイニン合成系の律速段階を担う酵素であるIPTをコードする遺伝子を老化開始時に一過的に遺伝子発現を誘導するPSARKプロモーターの制御の基に発現させるコンストラクを用いて、ペチュニア‘ミッチェル’およびキク‘神馬’、‘精興の誠’の個体が得られており。また、再分化途中の組換え体として キク‘カナリア’およびカーネーション‘ノラ’が得られている。これらの個体を引続き育成・収穫し、様々な条件下にて貯蔵、花持ち試験を実施し、そのストレス耐性、老化様相を調査する。II)PSARK-IPT組換え花き類およびストレス耐性の異なるキク類のサイトカイニン含量の調査:これまでに、葉の黄化は下部葉から発生し、この発生がキク‘精興の誠’ではPSARK-IPTの導入により抑制されること、一方、‘神馬’では元来発生が少なくPSARK-IPTを導入しても変化がないことが明らかとなった。このことより、上部葉と下部葉のサイトカイニンバランスが黄化発生に関連あると予想された。そこで、組換え花き類、および、ストレス耐性のことなるキク品種に関して、上部葉と下部葉に分けてサイトカイニン含量の調査を進める。III)アラビトプシスより花弁の老化時に発現が急増する遺伝子ATG8のプロモーター領域(PATG8)を単離し、IPTと繋げたキメラ遺伝子を含むベクターを作成した。また、このコンストラクトを導入したペチュニアのシュートが得られている。これを育成し、老化へのPATG8-IPTの影響を調査する。良好な結果が得られた場合には、さらに、様々な花き類への導入を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
予定どおり、遺伝子組換え体の作成に成功しているが、培養個体の生長が若干遅く、鉢上げおよびその後の解析に必要な費用として予定していた支出の内約28万円を次年度以降に繰り越しした。但し、組換え体の作成自体は順調に進んでいるので、本年度の計画の遂行には、繰り越し分を含めた本年度使用予定の研究費が必要である。 研究費(繰越額279,590円+次年度申請額800.000円=1,079590円)の使用の予定の内訳は以下のように計画している。組換え体の作成および無菌培養(250,000)、組換え体の隔離温室での育成(200,000)、遺伝子解析(250,000)、サイトカイニン量の解析(200,000)、その他消耗品類(80,000)、旅費(100,000)、人件費(100,000)。実験計画に記載のように、サイトカイニン含量の解析を進める必要があり、20万円を計上している。その他の経費に関しては、一般的な遺伝子組換え体の作成およびその解析に必要な経費となっている。特に、大きな物品の購入の必要はなく、すでにある設備を有効利用する。
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