2011 Fiscal Year Research-status Report
ガ類害虫の音響行動と聴覚特性:超音波を使った行動制御技術の開発を目指して
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23780053
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
中野 亮 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域, 任期付研究員 (90546772)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 害虫防除 / 超音波 / チョウ目 / 音響交信 / 産卵行動 / 交尾行動 |
Research Abstract |
モモ、クリ果実の主要害虫であるモモノゴマダラノメイガ(以下、本種)において、交尾時にオスが発する超音波を利用した雌雄間交信と配偶システムを明らかにした。本種は2-4日齢のメス、3-4日齢のオスの交尾活性がもっとも高く、暗期後半に交尾をおこなうことを室内実験にて確認した。この時、オスの胸部側方にある振動膜を用いて音の大きな超音波(ピーク周波数80kHz、測定距離1cmにおける音圧103dB SPL(0dB = 20μPa))が発せられた。また、オスの発する超音波は、前半部で持続時間25msの断続的なパルスを、後半部で100ms以上の連続したパルスであることが分かった。オスの発音器官の表面には8-9本の溝があり、膜の内面に付した筋肉を伸縮させることでこれらの溝が膨張と収縮を繰返し、破裂音を発する。この発音器官もしくはメスの腹部にある鼓膜器官を人為的に破壊すると、交尾率がゼロになることから、オスの発音が交尾に必須であることを明らかにした。交尾行動を詳細に観察すると、オスの発音に対してメスが左右の翅を背側に立てる特異的な行動を示し、続いてオスがメスの側方に着地し、交尾器の接合をおこなった。したがって、メスの翅を立てる行動反応は交尾を受入れる合図であり、オスの超音波を受容できないと交尾に至ることができない。メスの翅を立てる行動は合成音によっても再現可能であり、オスの超音波を利用した交信を実証することができた。合成音を用いた行動実験により、オスが発する超音波のうち後半部に発せられる連続的なパルスがメスの交尾受入れ行動を引き起こす示唆を得た。このことは、100ms以上の長い持続時間を示すパルスが、本種の交尾および産卵行動を阻害する超音波として不適であることを示す。今後、前半部に発せられる25msの断続的なパルスの機能を解析するとともに、防除に有効な音響特性の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本種における音響交信の有無、配偶行動連鎖、オスの発する超音波の音響特性、発音器官について、当初の計画通りに進展した。さらに、オスの超音波が交尾成功に寄与するメカニズムの一部を明らかにすることができた。持続時間の長いパルスがメスの交尾受入れ行動を引き起こすことは、このような音響特性を示す超音波がメスに好まれるということを意味する。したがって、メスが交尾後に産卵基質となるモモ、クリ果実へ飛翔する行動を効率的に抑止する超音波を今後2年間で探索していく上で、持続時間の短いパルスに焦点を絞ってスクリーニングすることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは室内での行動実験により、オスの性フェロモンを放出するメスへの交尾のための飛翔行動、および交尾後のメスのモモ・クリ果実への産卵のための飛翔行動を阻害する超音波のパルス構造・周波数を検証する。また、鼓膜表面における音刺激に対する振動パターンと、聴神経の応答パターンを計測し、反応性が低下しにくい(慣れにくい)音の構造を明らかにする。続いて、これらの特性を備えた超音波を大きな音圧で発生させることができる装置による、野外網室での防除効果を試験する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
複数の超音波用マイクロフォンを同時に計測可能な増幅装置の購入に次年度の研究費の大部分を執行する計画であったが、当初よりも製品が値上がりしたため、その分を23年度繰越分で充当する予定である。これは、共同研究を開始した鳥獣防除用の電子爆音機を製造・販売しているメーカーに、ガ類害虫の侵入を阻害する超音波発生装置の試作を依頼しており、試作器により発せられる超音波の大気中における伝播様式を解析するために要する。すなわち、超音波発生装置のどの角度でどの程度の音圧の超音波が放射されるかを明らかにするのに使われる。これにより、超音波発生装置の圃場等における設置位置や間隔、向きを策定することができる。
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Research Products
(14 results)