2012 Fiscal Year Research-status Report
ネムリユスリカの乾燥耐性メカニズムの特定と関連遺伝子の機能解析
Project/Area Number |
23780055
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Research Institution | National Institute of Agrobiological Sciences |
Principal Investigator |
コルネット リシャー 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫機能研究開発ユニット, 主任研究員 (20376586)
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Keywords | ネムリユスリカ / 乾燥耐性 / 酸化ストレス / マイクロアレイ解析 / RNAi / 培養細胞 / Keap1 / Cnc-C |
Research Abstract |
ネムリユスリカ幼虫の極限的な乾燥耐性能力(アンヒドロビオシス)の分子メカニズムを解明するために、24年度は乾燥幼虫の蘇生過程における遺伝子発現の変動をマイクロアレイにより解析し、RNAiを開発し、酸化ストレス応答遺伝子を中心に機能解析を進めてきた。 まずは、乾燥幼虫、蘇生後1時間の幼虫、蘇生後24時間の幼虫と通常の幼虫の4点でマイクロアレイ実験を行い、遺伝子発現の変動を特定した。その結果、乾燥幼虫から蘇生1時間までは乾燥耐性特異的な遺伝子群(抗酸化因子、シャペロンタンパク質、トランスポーターなど)が強く発現していた。一方、蘇生24時間後に一般代謝の回復が著しかった。蘇生後1時間から代謝を表す酵素活性機能の割合が増えはじめていたが、24時間後は消化機能やヘモグロビン生産などの通常代謝指標も回復しはじめていた。しかし、蘇生24時間後でもまだ通常幼虫のレベルまで回復していなかった。 続いて、遺伝子機能解析のためにネムリユスリカの実験法を開発しつづけた。ネムリユスリカ由来の培養細胞Pv210にsiRNAをエレクトロポレーションにより導入する方法と幼虫にsiRNAとトランスフェクション試薬の混合液を微量注入するという導入法を開発した。酸化ストレスのセンサーであるKeap1遺伝子を目的にして、Pv210培養細胞では独立した3つのsiRNAで同様に40%までの遺伝子発現抑制率を得ることに成功した。幼虫では20%の確実なRNAi効果をえることができた。一方、酸化ストレス応答の転写因子であるCnc-Cを目的したRNAi実験により、培養細胞Pv210では80%という確実な発現抑制効果が得られた。下流遺伝子に対するCnc-CのRNAiの影響を確認したところ、Cnc-Cは基本代謝の遺伝子発現を抑制し、乾燥耐性関連遺伝子の発現を誘導したが、抗酸化因子に対する効果が見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の酸化ストレス応答に続いて、24年度は乾燥幼虫の蘇生過程における遺伝子発現をマイクロアレイ解析により調べた。その結果、酸化ストレスに応答する遺伝子群は乾燥耐性関連のコアな遺伝子を含んでいることを確認することができた。 遺伝子機能解析に関しては、ネムリユスリカ由来の培養細胞Pv210を利用したRNAi実験系が確立され、じゅうぶん効果を得ることができ、効果の再現性も確認した。幼虫を用いた実験でもRNAi効果が確認されたが、培養細胞に比べ、効率が落ちて不安定気味なので、方法を改良する課題が残っている。酸化ストレス応答の中心にある2つの遺伝子( Keap-1と Cnc-C)に対する機能解析実験を行った結果、Cnc-Cは特にRNAi効果が顕著で、下流遺伝子に対する影響を調べはじめた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はRNAiによる遺伝子機能解析を中心に研究を進める予定である。実験系が順調に利用できるネムリユスリカ由来の培養細胞で酸化ストレス関連遺伝子などの機能解析を継続し、Keap-1と Cnc-Cの下流遺伝子に対する影響を確認する。一方、ネムリユスリカ幼虫を利用したRNAi実験系を改良する。最後に、RNAi個体の表現型を評価するため及びマイクロアレイ解析の結果を考察するため、幼虫の乾燥・蘇生過程でDNA酸化や細胞増殖などを検出する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費を予定通りに使う予定である。培養細胞の管理、RNAiのための試薬や検出キット類などの消耗品費に加えて、国内外の学会で発表するための旅費も必要になる。
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