2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜リン脂質の品質管理に働くシステイン/シスチンのシャトルシステム
Project/Area Number |
23780081
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
大津 厳生 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (60395655)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | システイン / ペリプラズム / 大腸菌 / 過酸化脂質 / 酸化ストレス |
Research Abstract |
申請者は、大腸菌におけるシステインの生理機能を研究する過程で、遊離のシステインが細胞表層(ペリプラズム空間)で存在する有害な過酸化水素を消去し、細胞を酸化ストレスから防御するユニークな機構を明らかにした(J. Biol. Chem., 285, 17479, 2010)。本研究課題では、平成23年度の研究計画の2項目をすべて行い良好な結果を得た。1)ペリプラズムに蓄積する過酸化水素の検出: Hpx変異株(カタラーゼ、ペルオキシダーゼの機能欠損株)は、1 マイクロM程度の過酸化水素を細胞質に蓄積することが知られている。過酸化水素は、細胞膜を自由に通り抜けることができるので、ペリプラズムにも同程度の過酸化水素が蓄積していると考えられる。このHpx変異株と比較して、さらに過酸化水素消去に働くシステイントランスポーターYdeDを欠損させた変異株で、ペリプラズムに過酸化水素が蓄積することを見出した。2)過酸化脂質の定量:細胞膜の主成分はリン脂質であることから、そのリン脂質(LPSも含む)が過酸化水素によって酸化され、過酸化脂質が生じ、細胞にダメージを与えるのではないかと予想した。そこで1)で構築したHpx/ydeD/fliY欠損株とHpx変異株を過酸化水素添加培地で10時間培養後、細胞膜リン脂質を調製し、過酸化脂質の非酵素的分解産物であるマロンジアルデヒドなどのアルデヒドとチオバルビツール酸を酸性条件で反応させ、生成する赤色の色素を分光学的に定量し、ydeD/fliY欠損株で有意に過酸化水素による過酸化脂質の生成量が増加していた。以上のことから、ペリプラズム空間で発生する過酸化水素をシステインが消去することで過酸化脂質の生成を未然に防いでいるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画の2項目をすべて行い良好な結果を得た。1)ペリプラズムに蓄積する過酸化水素の検出: Hpx変異株(カタラーゼ、ペルオキシダーゼの機能欠損株)は、1 マイクロM程度の過酸化水素を細胞質に蓄積することが知られている。過酸化水素は、細胞膜を自由に通り抜けることができるので、ペリプラズムにも同程度の過酸化水素が蓄積していると考えられる。このHpx変異株と比較して、さらに過酸化水素消去に働くシステイントランスポーターYdeDを欠損させた変異株で、ペリプラズムに過酸化水素が蓄積することを見出した。内膜を通過できない過酸化水素特異的検出試薬(非細胞膜透過性BES)を用いた。2)過酸化脂質の定量:細胞膜の主成分はリン脂質であることから、そのリン脂質(LPSも含む)が過酸化水素によって酸化され、過酸化脂質が生じ、細胞にダメージを与えるのではないかと予想した。そこで1)で構築したHpx/ydeD/fliY欠損株とHpx変異株を過酸化水素添加培地で10時間培養後、細胞膜リン脂質を調製し、過酸化脂質の非酵素的分解産物であるマロンジアルデヒドなどのアルデヒドとチオバルビツール酸を酸性条件で反応させ、生成する赤色の色素を分光学的に定量し、ydeD/fliY欠損株で有意に過酸化水素による過酸化脂質の生成量が増加していた。また、当初の計画になかった成果も得られた。これまでシャトルシステムの不明であったFliYと協調して働くシスチントランスポーターは不明であったが、このトランスポーターの同定することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は下記の当初の計画を実施する。また、平成23年度で得られたシスチントランスポーターの機能解析も新たに追加したい。3)過酸化脂質と細胞分裂との関連性:過酸化水素に曝し、細胞伸長を引き起こしたHpx変異株と過酸化水素処理をしていない細胞からリン脂質を調整し、薄層クロマトグラフィー(TLC)およびガスクロマトグラフ質量分析法を用いて、リン脂質(大腸菌の主要なリン脂質であるホスファチジルエタノールアミン)の酸化の割合と細胞伸長との相関関係を評価する。ここで真核生物の過酸化脂質の生成の鍵酵素はホスホリパーゼA2であり、大腸菌にもホスホリパーゼが存在するが、A1またはA2活性のいずれを有しているかは分かっていない。さらに、真核生物では酸化された過酸化脂質からホスホリパーゼA2により、酸化された脂肪酸鎖が切断され、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSHPx)により修復される。しかしながら、大腸菌はこのGSHPxを有していません。そのため過酸化脂質を分解するホスホリパーゼが存在するにもかかわらず修復経路がないため、システインの重要な役割があるのではないかと考えられる。そこで大腸菌のホスホリパーゼをHis-タグ精製し、その酵素の特性を解析する。大腸菌をモデルに遊離のシステインが、リン脂質のクオリティーコントロールに重要な役割を担っている可能性を示し、システインによる新たな酸化ストレス防御機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題遂行のために必要な消耗品や、研究成果発表に必要な旅費や別刷り費用(その他)、研究の進展に必要な勉強会による活発な情報交換のための技術指導や招聘者に対する謝金として、当初の計画通りに執行する予定である。
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Research Products
(6 results)