2011 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌セルラーゼ遺伝子発現を誘導する新奇転写調節因子の同定と機能解析
Project/Area Number |
23780086
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
谷 修治 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (80405357)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | ClbR / Aspergillus aculeatus / セルラーゼ遺伝子発現制御 / キシラナーゼ遺伝子発現制御 |
Research Abstract |
糸状菌Aspergillus aculeatusにおけるFI-avicelase (cbhI), FII-carboxymethyl cellulase (cmc2)遺伝子の発現制御は、XlnR(キシラナーゼレギュレータ)を介さない未同定な機構(XlnR非依存経路)により制御されている。我々はこれまでに、この経路に関わるZn(II)2Cys6タイプの新奇転写因子(cellobiose response regulator, ClbR)を同定した。そこでH23年度は、その機能解析を行うことを課題として設定した。 新奇転写因子遺伝子破壊株では、cbhI, cmc2遺伝子のセロビオースに応答した発現誘導がコントロール株の約80%にまで減少していた。また、XlnR依存或いはXlnR非依存経路に関わらず、セルロースに応答した遺伝子発現誘導はClbRにより制御されていることを明らかにした。次に、clbR遺伝子を翻訳調節因子遺伝子のプロモータ(Ptef)を用いて構成的に高発現させた結果、 キシラナーゼとbeta-グルコシダーゼ生産量はそれぞれコントロール株の9倍、3倍上昇し、エンドグルカナーゼ生産は、培養後期でも継続して高い生産量を保持されていた。生産量が頭打ちになっているバイオマス分解酵素生産において、新たな酵素大量生産系の分子基盤の構築に成功した。 ClbRの局在解析の結果、誘導・非誘導・抑制条件にいずれにおいても、ClbRは核に局在していた。また、MalE-ClbR融合タンパク質(rMalE-ClbR)を用いたin vitroにおけるDNA結合特性解析は、現在までのところClbR制御下にあるセルラーゼ・キシラナーゼ遺伝子プロモータ領域への特異的な結合を検出するには至っていない。今後は、ClbRの活性化機構および遺伝子発現誘導機構に関する研究を鋭意進める計画である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
i) セルラーゼ遺伝子発現を誘導する新奇転写因子の機能解析とその応用糸状菌における実用糖質加水分解酵素の生産制御機構に関する新奇セルラーゼ遺伝子発現制御機構を解明し、得られた知見を基盤として再生可能なセルロース系バイオマス資源の完全酵素糖化に必要な酵素の大量生産系を構築するための分子基盤を構築することを目的として本課題を設定した。そのため、新奇転写因子ClbRがセロビオース及びセルロースに応答したセルラーゼ・キシラナーゼ遺伝子発現を制御していることを明らかにし、その機能を用いて、エンドグルカナーゼ、キシラナーゼ、beta-グルコシダーゼ高生産株を作出できた成果は意義深い。これらの成果のうち、ClbRの機能解析結果を纏めた論文を現在投稿中であり、ClbRの機能を用いた酵素高生産株の作出に関しては特許出願と論文投稿準備中である。また、ClbRのin vitroでのDNA結合特性解析は課題を残しているが、これまでの知見を生かして、他の因子との相互作用の解析や間接的な遺伝子発現誘導も視野に入れて研究を展開することで、新たな知見が得られると確信している。ii) 新たなセルラーゼ遺伝子発現制御因子のスクリーニング・同定・機能解析H23年度は約8,000株スクリーニング行い、候補株を3株単離した。その内2株については変異点の同定も行い、現在更に詳細に機能解析を行っている段階である。これに関しては、まだ擬陽性の可能性が拭いきれておらず、候補因子の機能解析を進めるとともに、今後も新たな因子の同定を目指して鋭意スクリーニングを行う。以上より、当初の計画した研究をおおむね順調に進めていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
H23年度は、rMalE-ClbRのin vitroにおけるDNA結合特性解析において、ClbR制御下にある遺伝子プロモータ領域への特異的な結合を検出することができなかった。ClbRがXlnR依存的な遺伝子の発現誘導にも関わっていることから、ClbRはXlnRなどの他の転写因子と相互作用してセルラーゼ系遺伝子の発現を制御していることや、clbR遺伝子破壊株でもClbR制御下にある遺伝子の発現が20%残存していることから、セルラーゼ遺伝子の発現をClbRが間接的に制御していることが推測された。そこで、in vitroでの結合特性解析を休止し、既存の転写因子との相互作用解析を進めるために、現在鋭意実験を行っている。 新たなセルラーゼ遺伝子発現制御因子のスクリーニング・同定・機能解析において、新たに8,000株スクリーニングし候補株の単離には至ったが、その機能を同定するには至っていない。スクリーニングに要する時間がかかる原因の一つとして、一次スクリーニングの指標としている5-fluoroorotic acidに対する耐性の表現型が感受性株と見分けづらいことが挙げられる。そこで、現在cbhIプロモータ上のグルコース抑制に関わる転写抑制因子が結合する領域に変異を導入したプロモータをorotidine 5’-phosphate decarboxylase (pyrG)遺伝子と融合し、レポータ遺伝子として用いることで、5-FOA耐性株を見分け易くし、スクリーニングがより効率的に行う準備をしている。 以上のことより、H23年度に計画していた実験を一旦休止し、新たに実験系を組み直す過程で執行予算にも計画とずれが生じた。そこで、H23年度中に使用する予定であった予算をH24年度に回すことで、より成果を上げるために精力的に研究を展開する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、ClbRの機能を解明するために、clbR遺伝子のドメイン解析を行う。まず、NまたはC末端側から保存領域を順次欠失したClbRをA. aculeatus clbR遺伝子破壊株にて発現し、各株におけるセルロースに応答したセルラーゼ・キシラナーゼ遺伝子発現様式をリアルタイムPCR法や Northern blot法を用いて解析する。また、新たなセルラーゼ遺伝子発現制御因子を同定するために、鋭意スクリーニングを行う。変異株のセルロース資化能やセルラーゼ・キシラナーゼ遺伝子発現量をリアルタイムPCR法を用いて解析し、セルラーゼ遺伝子発現誘導能欠損株を同定する。取得した変異株における欠損遺伝子をT-DNAタギング法を用いて同定し、宿主を換えて再度同定した遺伝子の破壊と相補を行うことで、その機能解析を行う。また、同定した遺伝子の配列情報からコードされているタンパク質の機能を予測し、それに則して研究を展開する計画である。 また、上述したようにrMalE-ClbRのin vitroでの結合特性解析において、DNAへの特異的な結合が観察されなかったことをふまえ、次年度は、XlnRとの相互作用解析や制御因子遺伝子の発現解析、あるいはクロマチン免疫沈降法を用いて、ClbRの遺伝子発現制御機構を解明する計画である。そのために必要な、試薬類、制限酵素、抗体など、消耗品を購入するために予算を執行する。また、得られた研究成果を国内外の学会で発表するための旅費や、論文として発表するための投稿料などに予算を充てる計画である。
|
Research Products
(4 results)