2012 Fiscal Year Research-status Report
リパーゼ超誘導制御機構の解明と高界面活性作用蛋白質の機能解析
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23780090
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
赤沼 元気 中央大学, 理工学部, 助教 (30580063)
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Keywords | リパーゼ / Ralstonia / 高級アルコール / EliA |
Research Abstract |
昨年度までに、EliA(P15タンパク質)がステアリルアルコールによるリパーゼ発現誘導を促進していることを見出したが、これを受け、他の誘導剤におけるeliA破壊の影響を検証した。その結果、難溶性高級アルコールを誘導剤として用いた場合では破壊株におけるリパーゼ発現誘導効率の低下が観察されたが、可溶性の誘導剤を用いた場合では野生株と破壊株で誘導効率の差は観察されなかった。この結果と昨年度までに明らかにした事実を併せ、EliAが高級アルコールの認識・取り込みに関与し、結果としてリパーゼの発現誘導を促進していることをFEMS Microbiol. Lett. にて報告した。この論文中で、解読した16S rRNAの配列からこの種がRalstoniaに属していることにも言及している。一方、培養上清におけるプロテオーム解析から、ステアリルアルコール添加時には感染に関与するタンパク質が多数分泌されていることが分かった。また、ステアリルアルコール添加時には、細胞外多糖の生産量向上も観察された。近縁のBurkholderiaやRalstoniaでは感染時に細胞外多糖が生産されることが知られている。一方eliA破壊株では、感染に関与するタンパク質の分泌量低下と、細胞外多糖生産量の低下が観察された。これらの結果から、EliAが感染機会を感知するための機能を有していることが示唆された。 リパーゼ遺伝子の転写制御機構解析に関しては、昨年度までに転写因子候補として挙げられていたLipR80-1タンパク質を精製し、これがリパーゼ遺伝子上流域に結合することをEMSAによって確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書では具体的な検討課題として、以下の4点を挙げているが、どの項目においても本年度の研究計画を上回る進展が認められる。1.ステアリルアルコールによるリパーゼ誘導の作用点決定;すでに前年度までの研究で転写誘導が主因であることを明らかにしている。2.リパーゼ誘導に関与する因子の同定;他種リパーゼの転写促進因子であるLipRホモログをNT80ゲノム内で検索し、現在までに2種の破壊株作製に成功、そのうちLipR80-1と名付けたタンパク質の遺伝子破壊株でリパーゼ遺伝子の転写量が低下すること、LipR80-1がリパーゼ遺伝子上流に結合することをin vitroで証明した。3.P15タンパク質のリパーゼ発現誘導への関与解明;P15(EliA)が難溶性高級アルコールの認識・取り込みに関与し、結果としてリパーゼの発現誘導を促進していることを示した。4.P15タンパク質の界面活性作用と機能解析;前年度までに、培養上清から精製したEliAに高い界面活性作用があることを確認している。これに加え、ステアリルアルコールによるリパーゼ誘導時には、培養上清リパーゼの比活性も向上していることを見出した。この結果は、EliA又はその他の因子がリパーゼを活性化させている可能性を示唆している。これをin vitroで証明するための準備として、リパーゼ遺伝子の破壊株取得にも成功しており、この株における培養上清リパーゼ活性が欠損することも確認した。 さらに、プロテオーム解析の結果からEliAが感染に関与する可能性も見出されており、予想以上の進度となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
EliA(P15)が難溶性高級アルコールの認識・取り込みに関与していることが示されたので、電子顕微鏡を用いて高級アルコール添加時における細胞形態の変化を詳細に観察する。このとき、eliA破壊株に関しても同様に観察し、野生株との差異を見出す。Ralstonia属には、ある種のポリマーを細胞内に蓄積し、C源として利用するとの報告もあるため、高級アルコールから貯蓄可能なポリマーを生産しているかについても検討する。この点について、高級アルコール存在下・非存在下で培養した細胞を、C源を制限した培地に植菌し、生育の差異を観察する。また、培養上清からのEliA精製に成功しているので、大量精製系を確立し、結晶化・立体構造解明を目指す。 培養上清プロテオームの結果から、EliAが感染に関与する可能性が示唆されたので、近縁種で感染の報告があるトマトやイネに対する感染能と、この点におけるeliA破壊の影響を観察する。また、細胞膜、細胞質におけるプロテオーム解析も行い、高級アルコール添加に対する細胞の応答を観察するとともに、リパーゼ発現誘導に関わるタンパク質の探索を行う。 LipR80-1がリパーゼの転写因子として同定されたが、破壊株におけるリパーゼ発現量の低下の程度から、他の転写因子の関与も示唆される。そこで、LipR80-1のホモログであるLipR80-4をコードする遺伝子破壊株を作製し、リパーゼ発現への影響を観察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度はほぼ計画通りに研究費を使用したが、二次元電気泳動関連の試薬購入のための予算がやや低く収まったため、若干の繰越金が生じた。これを考慮した上で以下の研究費使用計画を立てた。 消耗品等;電子顕微鏡観察関連の費用として300千円を予定している。また、ドライストリップ、2D-Cleanup Kit、2D-Quant Kit、脂質分解酵素等の二次元電気泳動関連の消耗品購入の予算として150千円を計上した。その他の試薬購入予算として100千円を予定している。 旅費等;日本農芸化学会大会に参加し、成果を発表するための旅費として年間50千円を計上した。
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