2011 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌トランス・トランスレーションの分子メカニズムの解明
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23780099
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
栗田 大輔 弘前大学, 農学生命科学部, 研究員 (60552651)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | リボソーム / トランスレーション / タンパク合成 / tmRNA / SmpB |
Research Abstract |
従来の計画通り、トランス・トランスレーション中間体をin vitroで再現することに成功した。これまでのin vitroトランス・トランスレーション系は、翻訳とトランス・トランスレーションがカップルしていたため、後者だけを調べることが事実上できなかった。そこでAcPhe-tRNAを用いたin vitroトランス・トランスレーション系を立ち上げた。薄層クロマトグラフィによってPhe-tRNAのアセチル化を、限外濾過によってリボソームへの結合活性を測定した。前者の反応は90%以上の効率でアセチル化されており、今後の複合体形成を行う上で十分な収量であると考えられる。リボソーム結合活性については、反応条件の最適化によって50%程度にまで効率をあげることに成功した。 この系を用いて、GTP加水分解の引き金を引いているSmpB上の部位(SmpBのN末端と推測される)を特定するために、分子モデルを構築し、GTP加水分解に関わっている可能性のある部位を推測し、SmpB変異体を作製した。その中にペプチド転移反応の活性が低下する変異体を発見した。この変異体について、米国ブリガムヤング大学のグループと共同研究を行い、クエンチフロー法によるGTP加水分解活性の速度論解析を行った。その結果、この変異体はGTP加水分解の速度定数は野生型のSmpBと同等であることがわかった。これはGTP加水分解後の過程でこの部位が関わっていることを示唆するものである。 また、様々な長さのmRNAとリボソームの複合体を形成させ、クエンチフロー法によってGTP加水分解活性に与える影響を測定した。その結果、mRNAの長さに関係なくGTP加水分解の速度定数は一定であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来の方法では、トランス・トランスレーションの反応開始と停止は手動で行っていたため、前定常状態の速度論解析を行うことはほとんど不可能であった。共同研究により、クエンチフロー法によるトランス・トランスレーション中間体の活性測定を行うことが可能になった。その結果、mRNAの3'の長さがトランス・トランスレーションの各ステップに与える影響について、速度定数を比較することが可能になった。mRNAが長いときは、ペプチド転移反応の活性を低下させるのに対して、GTP加水分解には影響しないことから、tmRNA/SmpB/EF-Tu/GTP複合体はmRNAが長い状態、すなわち翻訳伸長中のリボソームに入ってきてGTP加水分解を行い、その後リボソームから解離していく、という新しいモデルが浮かび上がってきた。これは従来のトランス・トランスレーションモデルにはない新しい知見であり、GTP加水分解の分子メカニズムに大きなヒントを与えるものである。 またSmpB変異体について、その影響を調べたところ、GTP加水分解とペプチド転移反応の間の状態で活性を失っていることを突き止めた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果で、ペプチド転移反応活性に影響を与えるSmpBの変異体を発見した。引き続き、トランス・トランスレーション活性、特にGTP加水分解活性に影響を与える変異体の探索を行う。またGTP加水分解活性にはリボソームも関与していることが予想されることから、リボソーム変異体の作製を試みる。rRNAの遺伝子をすべて欠損した株にrRNAをプラスミドで導入することにより変異体を作製する。 またこれまでに、mRNAの3'末端の長さがトランス・トランスレーションの各ステップに与える影響を明らかにした。この結果を受け、様々なmRNAを用いた翻訳停滞リボソームに対して、tmRNAまたはSmpBのリボソーム結合活性を測定する。SmpBはtmRNA非依存的にリボソームに結合することが、これまでの予備実験の結果からわかっているので、Ala-tmRNA/SmpB/EF-Tu/GTP複合体を限外濾過を用いて精製を行う。この複合体とリボソームの結合をウェスタンブロットにより検出を行う。また蛍光ラベルしたSmpBを用いることで、1分子蛍光分析を行い、複合体の評価を行う。 また抗生物質であるキロマイシンは、EF-Tuの構造変化を阻害し、リボソームに結合したままの状態でとめることがわかっている。この複合体を形成させ、部位特異的ラジカルプロービング、化学修飾法、部位特異的クロスリンク法を用いて複合体の構造解析を行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き、in vitroトランス・トランスレーションの系を用いて、トランス・トランスレーション中間体の解析を行う上で必要な試薬類、消耗品を購入する。繰越金が発生した理由については、共同研究があげられる。今年度は、米国で共同研究を行ったが、その際に使用した試薬類・放射性同位体等について、共同研究先で負担していただいた。そのため、旅費は当初の予定額を超えてしまっているが、物品の負担が減った分、全体として当初の予定額と差が生じた。この共同研究は、平成23年6月の国際学会に参加した際に提案があり、研究費申請時点では想定していなかった。
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Research Products
(3 results)