2011 Fiscal Year Research-status Report
バクテリアにおける翻訳途中脱離ペプチジルtRNAの産生メカニズムの解明
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23780102
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長尾 翌手可 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30588017)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 翻訳 / tRNA / rRNA |
Research Abstract |
平成23年度は細胞内における翻訳途中脱離ペプチジルtRNA(drop off pep-tRNA)のLC/MSによる測定法の確立とその解析について研究を進めた。LC/MSを用いて、大腸菌Pth温度感受性株を非許容温度で培養した際に細胞内に蓄積するpep-tRNAのキャラクタリゼーションとプロファイリングを行った。キャラクタリゼーションについては、大腸菌細胞内の全48種類のtRNAをpep-tRNAの状態で単離精製し個々のtRNAについて解析を行った。pep-tRNAの単離解析はアイソアクセプターtRNAを区別した解析ができるだけでなく、個々のpep-tRNAを濃縮できるメリットがあり、全RNA画分の解析よりも検出感度が向上し、単離解析では5~6アミノ酸残基のpep-tRNAの検出に成功した。5~6pep-tRNAはMS/MS解析によってペプチド部分の配列を同定できることが判明し、それに基づいてdrop off由来遺伝子を特定することができ、その遺伝子の欠損株では野生型で見られていたpep-tRNAが観察できなかったことから、本研究で観察しているpep-tRNAは実際にmRNAを翻訳している中途に脱落したものであることが実証された。単離解析の結果から、停滞したリボソーム上でAサイトコドンと対応していないアミノアシルtRNAがAサイトに入り、ペプチジル転移反応によってPサイトのペプチドを引き受けた後drop offしている可能性があることが分かった。また、全pep-tRNA画分のプロファイリングでは、MC、MHを除く18種類のdipep-tRNAを安定的に検出できるようになり、drop off亢進rRNA変異を網羅的に解析したところ、新生ペプチド鎖が通るリボソームトンネルの変異体において亢進が見られたことから、新生ペプチド鎖とリボソームトンネルの相互作用を示唆すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時は、平成23年度は質量分析を用いて1)細胞内におけるpep-tRNAのプロファイリング、2)2番目のコドン認識の曖昧性とdrop offの関係を主に研究する予定であった。1)については、大腸菌細胞から安定的にpep-tRNAを抽出し、LC/MS解析を行う系を確立でき、全pep-tRNA画分解析では細胞内の19種類のaa-tRNAと18種類のdipep-tRNAについて定量的な情報を一度に得ることが出来る。これは電気泳動による従来法と比較すると労力や情報量の面で大きく改善したといえる。また、tRNA単離技術と組み合わせることで個々のpep-tRNAについて数アミノ酸残基ペプチドの検出やその配列の特定も行うことができる。以上のことから細胞内のdrop off pep-tRNAのキャラクタリゼーション、プロファイリング解析系はほぼ確立したと考えている。2)を進める上で当初、RNase mazFを用いて細胞内mRNAをレポーター遺伝子由来のものだけにする解析系を設計していたが、遂行中にアンチSD部分をmazFによって切断されたリボソームがSD配列を持たないmRNAを翻訳するといった論文が発表され、mazFの強制発現がmRNAの翻訳パターンを変化させる可能性が出たため、現在新たな方針を検討中である。一方で、申請時は24年度に進める予定であった3)drop off を引き起こすtRNA、rRNAの構造的要素の特定について研究開始時期を前倒しすることにした。本年度はrRNA構造とdrop offの関連について研究を進めた。P1トランスダクションによって変異rRNA解析用株(KT101株)にPth温度感受性形質を導入したKT101_Pthts株を作成し、変異体の温度感受性の亢進やpep-tRNAのプロファイリング解析し、drop off と関連する塩基を特定しその機能を調べている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、細胞内pep-tRNAのプロファイリング解析をほぼ確立したので、今後はこの系を利用して研究を進めていく。1)変異rRNAがdrop offに与える影響について調べ、その塩基の機能について新しい知見を得ることを目指す。rRNAはコドン-アンチコドン対合やペプチジル転移反応など翻訳の中枢となる場を提供していることが知られている。更に、近年では特殊な新生ペプチド鎖とリボソームトンネル構成塩基の相互作用が発現調節に関わる例が報告されている。本年度の研究により、1)を十分に遂行する材料が揃ったと考えており、今後は精力的に進めるつもりである。また、関連して、tRNA、rRNAは要所に修飾塩基を備えているが、その機能についていまだ未知なことが多く、本研究では修飾塩基の機能解明についても視野に入れて研究を進める予定である。具体的には、修飾塩基合成酵素の欠損株にPth温度感受性形質を導入し、温度感受性の亢進とpep-tRNAプロファイリングを解析していく。2)2番目コドンの曖昧性については、mazFがrRNAのアンチSD配列を切断するため研究方針に変更が生じたが、1)で用いているrRNAを改変する技術を利用してmazFに切断されないrRNAを作成し、2番目コドンの曖昧性の解析に特化した系を構築することを考えている。これまで、drop offを誘発する翻訳因子についての研究は多くあるが、ほとんどが遺伝学的なアプローチに限られており、実際にどのようなpep-tRNAがどの程度drop offしているかについての知見はない。本研究はpep-tRNAのペプチドやtRNAの種類について詳細に検証することが出来る点で過去の研究とは一線を画すと考えており、今まで捉えられることがなかったdrop offによる新たな翻訳調節機構の提唱を目指していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度にpep-tRNAの抽出等を含め解析系をほぼ確立したため設備備品等に次年度の研究費を費やす予定はない。消耗品等やその他の費用(受託解析費や保守費用等)については本年度と同程度の費用を次年度使用する予定である。また、次年度は最終年度ということもあり本年度よりも積極的に本研究の成果を学会等で発表していくつもりであるため、旅費については本年度よりも多くの研究費を使用する予定である。
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