2011 Fiscal Year Research-status Report
バイオフィルムの形成を阻害する新規糖付加ペプチドの機能解析と利用
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23780137
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野間 誠司 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40392071)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | バイオフィルム / メイラード反応 / 糖付加 |
Research Abstract |
バイオフィルムとは吸着担体上に形成した微生物フィルムのことを指す。一旦形成されて成熟化してしまうと洗浄・殺菌が困難になるため、食品衛生上その形成防止が重要となる。本研究では、メイラード反応により糖付加した食品由来タンパク質を分離源として得た新規ペプチドの中から黄色ブドウ球菌のバイオフィルムの形成を阻害するペプチドをスクリーニングし、LK(glc)G (Kのε-アミノ基にGlucoseを付加)を得た。これまでに、本ペプチドを固相合成し、LK(glc)Gはバイオフィルム形成阻害作用を示すが、glcを付加していないLKGは示さないこと、LK(glc)Gは黄色ブドウ球菌の増殖速度を低下させることを明らかにしている。 LK(glc)Gがバイオフィルム形成阻害作用を示す機構を調べた。まず、LK(glc)Gがethidium bromide染色性に及ぼす影響を調べた結果、染色性の増加は認められなかった。LK(glc)Gはクロラムフェニコール感受性にも影響を及ぼさなかった。したがって、LK(glc)Gには細胞膜を損傷させる作用や薬剤排出作用を低下させる作用はないことが示唆された。走査型電子顕微鏡でLK(glc)Gがバイオフィルムの形態に及ぼす影響を観察した結果、黄色ブドウ球菌の接着量が減少していることが確認され、同時に接着様式が変化している可能性が示された。LK(glc)Gの界面活性作用を調べた結果、バイオフィルム形成阻害作用を示すために必要な濃度の界面活性剤と比べて低く、バイオフィルム形成阻害作用を示さないLKGとはほぼ同等であった。したがって、LK(glc)Gの界面活性作用は接着様式の変化の直接的な原因ではないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度は最も時間を要すると予測される作用機構に関する検討に時間を割いた。現段階ではまだ作用機構の特定に至っていないものの、作用機構について重要な手がかりとなるデータを蓄積してきている。現在、バイオフィルム形成時に接着に重要な役割を果たす多糖類が分泌されるのかを、コンゴ―レッド染色により明らかにするべく検討を行っている。 一方、強いバイオフィルム形成阻害作用の発現に重要な糖の構造についても同時に検討を行っているが、糖によって付加しやすさが異なり、ペプチドの生成効率に差が生じてしまうため、糖付加率向上、付加の確認、また、その後の濃度調整に時間を要している。LK(glc)Gのバイオフィルム形成阻害スペクトルではバイオフィルムを十分に形成する実験系を構築中である。 以上のように、検討予定の各実験項目について同時並行で基礎検討を行っている段階であり、データを公表できる段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
(作用機構について)これまでの検討でLK(glc)Gは接着様式の違いを生じさせる可能性が示された。そこで現在、LK(glc)Gが接着に重要な役割を果たす多糖類の分泌を抑制するのかを検討している。(バイオフィルム形成阻害作用の発現に重要な糖の構造について)これまでペプチドへの糖の付加には加熱を利用していたが、還元剤を利用することで糖付加率を向上させることが可能になると考えられる。今後、このようにして糖付加率を上げたサンプルから目的のペプチドを精製する系を確立したいと考えている。一方で、LK(glc)Gのバイオフィルム形成阻害活性を示すために必要なアミノ酸や解離基についても検討を行うべく、LK(glc)やK(glc)G、N末端およびKのε-アミノ基をアルキル化したLKGを合成して作用を調べていく。(LK(glc)Gのバイオフィルム形成阻害スペクトル)現在、保有している微生物株ではバイオフィルムの形成が十分でない場合があるので、各種微生物についてバイオフィルムを形成させ、様々な評価を行っている実績を有する研究者から微生物株を分譲してもらい、LK(glc)Gのバイオフィルム形成阻害スペクトルを調べていく。(LK(glc)Gの固定化の可能性について)これまでに、N末端およびKのε-アミノ基について、アルキル化したペプチドを合成している。ここで、修飾してもバイオフィルム形成阻害効果に影響がない解離基を明らかにし、その解離基を利用して固定を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験上の主たる支出は薬品(30万円)、消耗品(40万円)、質量分析装置借用費(7万円)である。また、バイオフィルムの形成・評価系を有している研究者を訪問し、バイオフィルムをよく形成する微生物株の分譲をお願いするとともに実験手法を教えていただく(旅費5万円)。食品科学工学会第59回大会において成果発表を行う(代表者と発表補助者の旅費15万円)。さらに実験補助者に謝金を支払う(3万円)。
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