2011 Fiscal Year Research-status Report
う蝕リスク低減化食品素材探索へのグルカンスクラーゼ分子基盤
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23780139
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
伊藤 圭祐 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (40580460)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流(イギリス) |
Research Abstract |
本研究では最も身近な生活習慣病であるう蝕リスクの低減を最終的な目的とし、平成23年度はう蝕病原因子であるStreptococcus mutans由来グルカンスクラーゼ(GSase)の立体構造解明をめざした。その結果、GSaseの立体構造をX線結晶構造解析によって2.1オングストロームの高分解能で解明した。GSaseは触媒ドメインを含めた計4個のドメインにより構成されており、GSaseは一次配列の特徴からグルコシドハイドロラーゼファミリー(GH)70に属するが、GSaseの触媒ドメインはGH13に属する既知のアミラーゼに類似したTIMバレル構造を取っていた。一方で、GSaseとGH13アミラーゼのアミノ酸配列間には順列置換が起きていることが明らかとなった。すなわち、GH13アミラーゼのドメイン構成はN末端側からA1、B、A2、Cの順であるのに対し、GSaseのドメインはB1、A1、C、A2、B2の順で構成されていた。また、GSaseの触媒部位に被さるように、GH13アミラーゼには存在しない2つのαヘリックスが存在し、サブサイトの一部を形成していた。このような順列置換や配列挿入は、GH70とGH13ファミリー間酵素の分子進化を示唆するものとして興味深い。本研究成果により、虫歯の病原因子であるGSaseの立体構造情報をもとに、より選択性が高く、強くGSaseに結合する阻害物質の探索・設計が可能となり、より効果的な虫歯の予防物質の探索が期待される。虫歯病原因子の立体構造解明は本研究が世界初であり、う蝕予防研究のブレークスルーともいえることから、新聞、テレビ等の報道機関の取材を通じて研究成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初の目標通り、GSaseの立体構造解明に成功した。研究過程には立体構造解析に必須である結晶化を含め、種々の条件決定が含まれているため、虫歯病原因子の構造を基盤としたう蝕リスク低減化食品素材の探索において、我々の研究グループは競合する世界の研究グループに対して大きなアドバンテージを有することとなった。さらに、強い阻害効果があることが知られている既知化合物のアカルボース、糖転移基質であるマルトースとの結合構造の解明にも成功しているため、平成24年度の到達目標である「GSaseの基質複合体構造解析」間近まで研究が進展しており、極めて順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
GSase単体の立体構造に加え、既知阻害物質であるアカルボース、糖転移基質であるマルトースとGSaseの結合構造の解明にも成功したため、今後は得られた構造の精密化や変異体解析を行うことで、GSaseのリガンド認識・触媒メカニズムを解明する。さらに、得られたGSaseの分子基盤に基づいて新規GSase阻害物質の探索・設計を進め、同時に既知阻害物質の作用メカニズムを解明する。また、GSase以外のう蝕病原因子についても阻害物質を探索・利用することで、GSase阻害との相乗効果によって優れたう蝕予防効果が期待できる食品素材の開発を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は既知阻害物質であるアカルボース、糖転移基質であるマルトースとGSaseの複合体構造解析の精密化のため、結晶化試薬類を購入予定である。また、それに伴いタンパク質の発現精製が必須であるため、培地類、細胞破砕試薬類、DNA操作試薬類も引き続き購入予定である。平成23年度に設備備品としてNano Drop 2000を購入予定であったが、予算削減のため、同等品であるトミー社製のQ5000を購入し、70,846円の次年度繰り越し研究費が生じた。また、これにより極微量タンパク質を用いたサンプル調製が可能となり、今後は阻害物質との相互作用解析のハイスループット化が期待できる。阻害物質候補化合物として、食品素材に含まれる成分を中心に各種試薬類を購入予定である。全年度を通じ、X線回折データを取得するために高エネルギー加速器研究機構での実験が必要であり、そのための交通費が必要になる。また、本年度も論文発表を行なう予定であり、その都度、論文投稿費用が必要である。
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