2012 Fiscal Year Research-status Report
う蝕リスク低減化食品素材探索へのグルカンスクラーゼ分子基盤
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23780139
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
伊藤 圭祐 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (40580460)
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Keywords | 国際情報交換(イギリス) |
Research Abstract |
本研究の最終的な目的は、最も身近な生活習慣病である、う蝕リスクの低減である。当該年度はう蝕病原因子であるStreptococcus mutans由来グルカンスクラーゼ(GSase)とその阻害剤およびアクセプター基質との複合体構造のX線結晶構造解析およびそのモデル精密化を行い、相互作用の詳細を解明した。 これまで各種食品素材からGSase阻害物質が探索され、茶、プロポリス、リンゴ等のポリフェノール類に強い阻害活性があることが報告されている。しかしGSaseの糖転移反応メカニズムを理解し、より効果的な阻害物質を設計開発するには、そのサブサイト構造の情報が不可欠である。そこで、既知阻害物質であるアカルボース、糖転移反応のアクセプター基質であるマルトースとの複合体構造を解析した。その結果、サブサイト-1を構成するアミノ酸残基は、Glycoside hydrolase family 13に属する他アミラーゼとの間で高度に保存されている一方、サブサイト+1, +2, +3を構成するアミノ酸残基は大きく異なっていることが明らかとなった。マルトースはTrp517とTyr430に挟まれて結合しており、これらのアミノ酸残基がアクセプター基質の結合に重要であることが明らかとなった。この知見は、GSaseに特異的な阻害剤を探索設計する際の重要な情報となる。S. mutansの持つ3種のGSase(GTF-I、GTF-S、GTF-SI)はその反応生成物が異なることを利用し、これらのアミノ酸残基を比較したところ、サブサイトを構成するアミノ酸残基のうちGTF-S、I、SI間で異なるのは593位のみであることがわかり、このアミノ酸残基が3酵素間の糖転移反応生成物の違いに関与していることが示唆された。また、抗う蝕効果の期待される新規機能性ペプチドを見出したため、その分子メカニズムの詳細な解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初の目標通り、GSaseと阻害剤・アクセプター基質の複合体の立体構造のX線結晶構造解析に成功し、構造モデルを精密化することで、その相互作用の詳細を明らかにできた。特にGSaseに特有のリガンドとの相互作用領域を特定できたことは、GSaseに特異的な新たな阻害剤の探索・開発への有用な情報であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から得られたGSaseの分子基盤に基づいて新規阻害物質の探索・設計を進め、同時に既知阻害物質の作用メカニズムの解明を目指す。また、GSase以外のう蝕病原因子についても阻害物質を探索することで、GSase阻害との相乗効果によって優れたう蝕予防効果が期待できる食品素材の開発を目指す。具体的には、予備実験によりS. mutansの生育を阻害する可能性のあるペプチドを見出したことから、その作用メカニズムの解明を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はGSase阻害剤探索のため、ポリフェノール類やペプチド類等の各種候補化合物を試薬として購入予定である。また、解析には組換えGSaseの発現精製が必須であるため、培地類、細胞破砕試薬類、DNA操作試薬類も引き続き購入予定である。全年度を通じ、X線回折データを取得するために高エネルギー加速器研究機構での実験が必要であり、そのための交通費が必要になる。
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