2012 Fiscal Year Research-status Report
細菌の適応能力を逆手にとる:適合溶質の取込み機構を活用した安全・高品質な食品製造
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23780150
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
小関 成樹 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所食品工学研究領域, 主任研究員 (70414498)
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Keywords | 適合溶質 / 増殖阻害 / アミノ酸 / 代謝阻害 / 予測モデル |
Research Abstract |
細菌のストレス応答機構を利用して,適合溶質として細胞内恒常性維持に寄与しない食品素材を細胞内に誤って取り込ませ,代謝阻害を誘導し,細菌の活性低下を誘発する。このように活性の低下した細菌に対して温和な加熱処理等を施すことで,相乗効果により従来よりも殺菌効率を 大幅に向上させるとともに,食品の品質低下を最小限に抑えるのが本研究の狙いである。最終的 にはこのような細菌活性低下を誘発する食品素材と加熱や高圧処理等の単位操作との組合せを最 適化した,従来より優れた微生物学的な安全性を確保した高品質な食品の新規製造方法を開発することを目的とする。 平成 24 年度はH23年度において見出した代謝阻害を誘導する候補物質2種類を用いて,グラム陰性菌として Escherichia coli とSalmonellaを,グラム陽性菌として Listeria monocytogenes に対する効果を検討した。具体的には,加熱ストレス以外の浸透圧あるいは pH ストレス負荷条件下での代謝阻害活性を明らかにし,最終的には広範な環境ストレス下で効果の高い物質を選抜し,それら候補 物質の濃度依存性についても明らかにした。その結果,浸透圧ストレスとの組み合わせによって,候補物質の一つである必須アミノ酸が極めて強力な増殖阻害活性を示すことを明らかにした。特に,グラム陰性菌に対しての効果が顕著であり,低濃度(~10 mM)の添加から効果を示し,濃度上昇に伴い効果も増大することを明らかにした。 本年度の検討によって,グラム陽性/陰性に関わらず,極めて高い増殖阻害活性を有する物質(アミノ酸)を1種類見出すことに成功した。さらに,浸透圧ストレスとの組合せで効果を増大させることにも成功した。次年度以降には,モデル食品系での効果を検討することで,実用化に向けた研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね当初の計画通り,菌種菌株の差を超えて阻害活性の高い物質を 1~2 種類選抜することに成功した。さらに,その中でも特に増殖阻害活性の高い物質(必須アミノ酸)を一つにまで絞り込むことができた。また,温度や浸透圧のストレスを併用することで,探索した候補物質の効果を増強することが可能であること,さらには,候補物質の細菌増殖阻害活性の濃度依存性を明らかにすることができた。本年度は計画していた病原性細菌以外の腐敗細菌についての検討までは行えなかった。しかしながら,病原性細菌を効果的に制御する方法を明らかにすることができたことから,食品の安全性を確保するための制御手法としての利用価値は高い。以上のように,本研究は概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度は,H24年度において使用する代謝阻害物質の種類および濃度,加熱処理温度,塩分(水分活性),pH などを変動させてデータを蓄積し,従来にない全く新しい細菌増殖阻害予測モデルを開発する。開発した予測モデル を活用して,実際の食品系での適用可能性を検討する。代謝阻害物質としてアミノ酸を適用する場合には,食味に及ぼす影響が懸念されることから,その使用濃 度を含めて詳細な検討を行う。具体的には,低温殺菌を前提とする業務用加工液卵や牛乳などの液状食品に加えて,各種の惣菜類(煮物,和え物など)のような固形食品などを対象として,代謝阻害物質の添加が食品の品質変化に及ぼす影響を明らかにして,殺菌効果と品質面とのバランスを考慮した細菌増殖阻害方法を開発する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は、交付申請時の計画どおり、旅費・その他消耗品等の費用に使用する。なお、次年度使用額425,961円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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