2011 Fiscal Year Research-status Report
カルパインの制御異常による胃粘膜損傷の発生機構に関する研究
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23780152
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
秦 勝志 (財)東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (10392375)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | プロテオリシス / カルパイン / 胃粘膜防御 |
Research Abstract |
カルパインはカルシウムによって活性が制御される細胞内プロテアーゼであり、多様な生体機能や病態へ関与する。研究代表者らは近年、胃腸特異的に発現するカルパイン8と9が複合体(G-カルパイン)を形成して胃粘膜防御に関わることを明らかにした。本年度は、ノックアウトマウスを用いた腸管における表現型の解析と、G-カルパインの構造解析に向けた組換えタンパク質の大量精製法の確立と、その酵素学的性質の解析を行った。カルパイン8/9ダブルノックアウトマウスの腸管におけるCD4陽性ヘルパーT細胞(Th17細胞)の数をFACSにより評価したところ野生型に比べて数が約半減していること、また、Th17細胞が産生するインターロイキン(IL)-17, 22の発現低下を見出した。Th17細胞は、過剰な活性化が自己免疫疾患の原因となる一方、腸管粘膜固有層だけには常在して腸管免疫の恒常性に寄与すると考えられている。現在、解析するマウス個体数を増やして検討中である。リコンビナントG-カルパインの大量精製法については、大腸菌発現系では殆ど可溶性画分にG-カルパインが得られなかったことから、まず、小麦胚芽無細胞発現系を用いたところ、G-カルパインは安定に可溶性画分に得られたことから、これをNi-affinityカラムと陰イオン交換カラムにかけ、ほぼ単一に精製し、酵素学的性質の解析することに成功した。ただし精製G-カルパインは、精製中に一部が不安定化してしまい、精製後1ヶ月以内に完全に失活する問題点があることから、発現系にSf-9/baculovirus系を用いること等さらに条件の検討を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画中におけるG-カルパインの結晶構造解析に向けて、本年度はリコンビナントG-カルパインの発現・精製系の確立をかなり進展させることができた。一方、G-カルパインによる胃粘膜防御のメカニズムについてはあまり進展させることができていないが、その過程において新たに腸管免疫への関与を示唆する実験結果を得ることができ、G-カルパインの生理機能解明に新たな可能性を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
胃粘膜防御のメカニズムについて、アルコールの他に、高脂肪食の一定期間投与や、胃疾患の危険因子である非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)やピロリ菌の摂取による胃粘膜への影響を調べたい。その上で、G-カルパインが発現する表層粘液細胞の微細構造の解析、表層粘液細胞の分化移動能、アポトーシス誘導亢進の有無、粘膜修復因子の発現レベルやサイトカインレベルの増減を調べる。また、腸管免疫については、Th17細胞分化におけるG-カルパインの役割について解析すると共に、Th17細胞の減少によりどのような病態をもたらすのか詳細に検討する。G-カルパインの構造解析に向け、より安定な大量発現・精製系の確立を目指す。現在確立した精製系では、G-カルパインにおけるカルパイン8と9それぞれの役割について変異体を用いた解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者の所属施設にはマウス飼育スペース、質量分析装置、共焦点顕微鏡など、設備面はほぼ完備されている。申請者はこれらを使用することで本研究課題を遂行する計画だが、本年度の研究成果から腸管免疫へのG-カルパインの関与が示唆され、FACS解析などで比較的高額な抗体等の消耗品を購入する必要が新たに生じたため、消耗品費が当初の予定より多くかかる予定である。本年度未消化の研究費を次年度に使用させていただくことで、その購入経費に充てたい。その他、1-2件の国内学会参加のための参加費・宿泊費、論文投稿・掲載費として使用する予定である。
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