2011 Fiscal Year Research-status Report
大量枯死したアカマツ倒木が菌類による分解を通して森林樹木の更新にはたす役割の解明
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23780156
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
深澤 遊 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30594808)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アカマツ / 枯死木 / 菌類 / 腐朽型 / 生物間相互作用 |
Research Abstract |
本年度は(1)広域調査によるアカマツ倒木の腐朽型の分布の緯度系列での比較と、(2)特定の調査地における腐朽菌から木本実生への相互作用ネットワーク、のパターンを検出するため、野外調査に重点を置いて研究を行った。(1)については、個々の地域での調査地点数を増やしたことにより、予定していた10カ所を遥かに上回る20カ所で調査を行うことができた。その結果、当初の予想(高緯度ほど褐色腐朽の割合が増える)と異なり、低緯度ほど褐色腐朽の割合が増える傾向にあることが分かった。この理由として、下記の3つの可能性が考えられる:(1)低緯度ほど褐色腐朽菌が多い;(2)低緯度ほどマツ枯れの被害が大きいため、褐色腐朽になりやすい(欧州での研究から、穿孔性昆虫が褐色腐朽菌ツガサルノコシカケを媒介する可能性が示唆されている);(3)低緯度ほどマツ枯れの被害が大きいため立枯れになりやすく、その結果として褐色腐朽になりやすい(立枯れは倒木に比べ含水率が低く保たれるため、乾燥条件を好む腐朽菌群集が形成されるが、褐色腐朽菌オオシワタケは乾燥条件を好む可能性がある)。今後は、これらの可能性を検証するため、データの解析を進めるとともに、枯死木内部の菌類群集の乾燥条件に応じた分布についても詳細な調査を行う予定である。(2)については、東京都の調査地においてアカマツ倒木上に生育する変形菌・コケ・樹木実生と材の腐朽型や腐朽菌との関係を詳細に調査し、それぞれの生物群の中に特定の腐朽型を好む種がいることを確かめた。さらに腐朽型から変形菌、コケ、樹木実生という作用の流れについて構造方程式モデリングにより解析し、有意な相互作用があることを確かめた。今後は、個々の相互作用のメカニズムを明らかにするため、室内での培養試験やポット実験などを行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの調査により、北は秋田県から南は岡山県(最南は和歌山県)まで当初の予定を大きく上回る20カ所でアカマツ倒木の腐朽型を調査することができた。これにより、腐朽型の緯度系列に沿った分布について詳細な予測が可能になりつつある。さらに、特定の調査地における生物間相互作用の詳細なネットワーク構造についても、本年度予定していた野外調査によるパターンの検出が終了した。この成果については、2012年3月に滋賀県瀬田の龍谷大学において開催された日本生態学会大会において口頭発表を行うとともに、さらに幅広い分類群の生物を対象とした枯死木上での生物間相互作用研究の発展を促すため、企画集会を企画し、研究者間の交流を図った。このように当初の研究計画を着実に実行できているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の広域調査により明らかになった、アカマツ倒木の腐朽型の緯度勾配の理由について、地理データ・マツ枯れ被害の有無・伐倒処理の有無を要因として、それらの腐朽型への影響について解析を進める。さらに、立枯れが腐朽型に与える影響を明らかにするために、研究代表者の所属している東北大学フィールドセンター内のアカマツ林において立枯れを必要量伐倒し、内部の菌類群集と、各菌類の材分解力を定量的に調査する予定である。また、1カ所での詳細な研究から明らかになった枯死木をめぐる生物群集の相互作用のうち、詳細の特に良く分かっていない腐朽菌と微生物食者である変形菌の関係について、安定同位体分析技術を用いて変形菌の種ごとの食性を詳細に明らかにすることにより、相互作用のメカニズムを明らかにしていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、腐朽型の発生頻度の野外調査については、本年度に行えなかった九州地方を重点的に調査したいと考えている。本年度の調査から、アカマツ倒木の褐色腐朽の割合に明確な緯度勾配が見られる可能性が高まったことから、低緯度地域としての九州地方での調査は非常に重要だと考えている。このため、九州地方への旅費を使用したい。また、詳細な生物間相互作用のメカニズムを明らかにするための室内実験に使用する消耗品の他、培養に必要なインキュベータを購入したい。次年度も、研究成果の公表を積極的に行っていくため、学会参加のための旅費および論文の英文校閲費を使用したい。
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