2012 Fiscal Year Research-status Report
大量枯死したアカマツ倒木が菌類による分解を通して森林樹木の更新にはたす役割の解明
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23780156
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
深澤 遊 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30594808)
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Keywords | 枯死木 / 生物群集 |
Research Abstract |
アカマツ倒木の腐朽型の全国的な分布を調べるために、東北から九州まで合計29カ所の森林(アカマツ林とは限らない。二次林、スギ人工林となっているところも含む)において、アカマツ倒木の腐朽型の発生頻度を調査した。その結果、低緯度地域ほど褐色腐朽の割合が高いことが分かった。調査地の年平均気温および年降水量と腐朽型の発生頻度の相関関係を解析したところ、これらの間に有意な正の相関が検出された。この結果から、本研究課題におけるこれまでの調査により明らかになっている、菌類による腐朽型を介した倒木上での生物間相互作用が緯度系列で変化する可能性が示唆された。このような緯度系列での分解過程の違いを明らかにした例は少なく、非常に意義深いデータである。 アカマツ枯死木の分解過程と、それに関わる菌類群集を詳細に明らかにするために、東北地方の1カ所の調査地において、さまざまな分解段階のアカマツ立枯れ木の内部の菌類群集を調査し、分解過程との関係を調査した。その結果、辺材部にはシハイタケ、心材部にはムラサキゴムタケという全く異なる菌類が優占していた。これらの菌類は材分解力が異なると考えられるため、部位によって異なる菌類が定着して異なる分解を行うことにより、材内部での分解過程の異質性が生じると考えられた。この結果は、1本の枯死木の内部でも不均一なハビタットが生じることを意味し、他の生物の住み場所としての枯死木の多様性の創出機構を理解する上で重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
調査地は当初の予定を大幅に上回り、29カ所に達した。これにより、より詳細な緯度系列での腐朽型の分布パターンが明らかになってきた。また、本研究での成果を含めた枯死木に関連する生物間相互作用を扱っている生態学研究者を集めて、第59回日本生態学会大会において企画集会を企画するとともに、同集会での成果を特集として日本生態学会誌に投稿した。また、2012年度に英国ケンブリッジ大学出版会から出版された「Biodiversity in Dead Wood」という洋書の邦訳を行い、出版予定である。このように、データの蓄積もさることながら、その公表および関連研究者との協力関係、一般への啓蒙も予定以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの広域調査で見られたパターン、および定点での詳細な生物間相互作用のメカニズムについて、実験系で検証する作業を主に行う。そのため、インキュベータを購入する予定である。昨年度の調査によって得られた菌株を用いて材分解試験をすることにより、各菌種の潜在的な材分解力を評価し、野外における優占度のデータと共に考察して、アカマツ枯死木の分解プロセスがどの菌類によって引き起こされているのかを明らかにする。 さらに、同様に菌株を用いて温度の傾度と各菌株の生長および材分解速度との関係を明らかにし、広域調査で見られた材分解の緯度系列による違いの生じるメカニズムを、菌種による適温幅の違いから説明を試みる。また、広域調査で得た材サンプルから菌類のDNAを直接抽出し、シーケンス解析することにより、緯度系列で発生頻度にクラインが認められた褐色腐朽に関わる菌類の発生頻度が緯度系列で異なるかどうか評価し、菌類群集が緯度系列で異なっている可能性を検証する。 広域でのパターンの検証と平行して、マイクロコズム実験により、腐朽型が枯死木内部の生物群集への影響を介して、枯死木上に定着する樹木実生のパフォーマンスに与える影響とそのメカニズムを調べる。 以上の結果から、気候条件が枯死木内部の菌類群集を介して材の腐朽型に影響し、それが枯死木内部の生物群集を介して倒木上に定着する樹木実生に影響する作用の流れを総合的に明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
50万円のインキュベータを1台購入する。サンプルがとれていない東北地方および関東地方の調査地への旅費を10万円使用する。残りは消耗品の購入および英語論文執筆の際の英文校閲費にあてる。
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Research Products
(10 results)