2011 Fiscal Year Research-status Report
アカマツ天然集団の景観スケールにおける遺伝的動態の解明
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23780171
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
岩泉 正和 独立行政法人森林総合研究所, 林木育種センター関西育種場育種課, 研究員 (50391701)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | アカマツ / 遺伝子流動 / 景観 / 雌性配偶体 |
Research Abstract |
1.アカマツ種子の形成と充実に及ぼす受粉の有無と花粉の質の影響(Iwaizumi & Takahashi, in press)集団保全に不可欠な、当該樹種の繁殖特性を把握するため、林木育種センター構内(茨城県日立市)のアカマツ植栽個体の雌花へ4種類の受粉処理(自家受粉、他家受粉、無受粉、自然受粉)を行い、得られた球果あたりの種子の形成率と充実種子率を計測した。無受粉処理では、球果自体は出来たものの種子は全く形成されなかった。自家受粉では、種子形成率については他家及び自然受粉と同等の値を示したのに対し、充実種子率は他の2処理よりも大きく下回った。このことから、種子の成熟にかかる形成と充実という2つのプロセスのうち、形成には受粉の有無自体が大きく影響する一方で、充実には受けた花粉の質のほうが大きく影響する可能性が示唆された。2.アカマツ天然集団の景観スケールにおける遺伝的動態の解明阿武隈高地森林生物遺伝資源保存林内(福島県いわき市)の、尾根沿いに複数断続して生育するアカマツ天然集団において、これまで詳細な遺伝子流動の解析を行ってきた(Iwaizumi et al. 2007; 2010)1つの尾根上の集団に加え、周辺の尾根沿いに生育する集団(8集団)も新たに調査対象とし、調査地(計9集団;約1.5km×1.5km=約225ha)とした。9月~12月の3ヶ月間にわたり、各集団3箇所ずつ種子トラップを設置し、散布種子を収集した。散布種子数は集団間で62個/m2~262個/m2と少なからず違いが見られた。トラップ当たり24種子を対象に、胚[2n]及び雌性配偶体[n]の組織別のDNAを抽出と、8 SSR遺伝子座(Lian et al. 2000、Watanabe et al. 2006、Isoda et al. unpubl.)を用いた遺伝子型又は半数型の決定に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
周辺のアカマツ集団の探索・選定及び調査地の設定をひと通り行い、さらに初年度秋の種子採取及び種子組織のDNA抽出・分析に着手できた(抽出は約半数の650サンプル、分析はそのうち300サンプル程度進行)ことから、おおむね順調に進展しているところである。東日本大震災及び福島原発事故による放射能汚染の危険性から、8月あたりまでは現地調査を差し控えていたため(以降、当研究機関幹部から入林が許可)集団の成木個体数などの調査までは行うことは出来なかったものの、次年度の予定調査量の範囲内で実施が可能と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
雌性配偶体の対立遺伝子が雌親由来であることから、胚の雄親由来の対立遺伝子を識別することにより(Iwaizumi et al. 2007)、正確な雌雄別の遺伝変異のデータを得る。平成23年度の種子について、各トラップ(最大30種子群)の雌雄配偶子別の遺伝的多様性(有効な対立遺伝子数やヘテロ接合体率等)及び配偶子グループ間の遺伝構造(グループ間の遺伝的分化度や距離による隔離(isolation by distance)の程度等)の解析を行う。また、TwoGener法(Austerlitz and Smouse 2001)等の間接的手法により、雌雄の両配偶子による、有効な遺伝子流動範囲や繁殖に寄与する雌雄親数等を推定する。上記の分析結果の関係を解析することにより、景観スケールでの集団の遺伝的多様性維持に対する、雌雄配偶子群のそれぞれの寄与を体系的に理解する。平成24年度以降も引き続き、自然散布種子のサンプリング及び組織別のDNA分析、雌雄両配偶子の遺伝変異の把握、生育スケール及び雌雄配偶子毎の有効な繁殖個体数等の推定解析を行い、前年度との傾向の違いや、年次間での各遺伝変異グループ間の遺伝的関係等を把握していく。また各集団について、基本情報として林況の把握を行い、集団の遺伝子流動の大きさと生育個体数・個体密度・(平均個体サイズから推察される)齢級の相関関係等を把握することや、遺伝子流動推定のパラメータとして解析に盛り込むことも考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度と同様、DNA分析費(DNA抽出、PCR、シーケンサによる電気泳動、他消耗品、及び実験補助者雇用費など)を主体として使用していく。散布種子のDNA分析数については、結実の豊凶の程度等に従って、多少、種子の全数分析か選択数分析かの検討や、年度間での調整(豊作年ではトラップ当たりの分析数を増やす、分析の一部を次年度に持ち越す、等)を行うことも考えている。残金で、成果発表(国内学会参加)旅費や論文投稿のための英文校閲費、調査時の消耗品費などへ充てる予定である。
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Research Products
(6 results)