2012 Fiscal Year Research-status Report
無機材料結合性ペプチドを用いたCCA処理木材判別法の開発に関する基礎的研究
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23780180
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30447510)
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Keywords | CCA処理木材 / 無機材料結合性ペプチド |
Research Abstract |
平成14年に建設リサイクル法が施行されたことにより,建築資材である木材の再資源化が義務付けられた。これにより,CCA保存剤処理された木材が廃棄されることが問題となっている。CCA木材保存剤はヒ素などの有害化学物質を含むことから現在では使用されていないが,今後CCA処理された木材が大量に廃棄されることは確実である。この木材の分別・回収を効率的に行う為に,解体現場におけるCCA処理木材の確実な判別方法の開発が期待されている。そこで本研究では,廃材中に存在するCCAに由来する無機化合物粒子を特異的に認識するペプチドを創出することで,無機化合物結合性ペプチドを抗原とした抗原抗体反応によるCCA判別技術が開発可能ではないかと考えた。また,このペプチドをプローブとして利用することで,CCAの木材組織における局在性に関する情報を得ることも可能となることから,CCA木材の廃棄物処理法における知見を得ることにも繋がると思われる。 昨年度,ペプチド提示ファージシステムを用いて,CCA処理木材中に存在することが予想される水酸化クロムに特異的に結合するペプチドを探索した。その結果,CCAに結合性を示すペプチド配列を提示したファージを特定したが,それらのペプチドを人工的に合成したところ水に難溶であったことから,結合実験には適さないと判断された。そこで本年度は,新たな可溶性のペプチドの探索を試みた。その結果,上記の問題を解決する水溶性の高いペプチドは得られなかったものの,若干の水溶性を示したペプチドが見いだされたことから,それを用いて性能評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に得られた水酸化クロム結合性のペプチドは水に難溶であったことから,当該年度は,より水溶性の高いペプチドを探索すべく,ペプチド提示ファージシステムを用いた水酸化クロム結合性ペプチドのスクリーニングを再度試みた。得られたペプチドは水への溶解度は低いもののわずかに水溶性を呈したことから,それを用いて研究を進めることとした。得られたペプチドを蛍光標識し,その溶液中に水酸化クロムを懸濁した後,遠心分離により上精を回収した。この溶液の蛍光強度を測定することでペプチドの水酸化クロムへの吸着能を評価した。その結果,上精の蛍光強度が減少しているもの,すなわち,水酸化クロムへの吸着を示唆する結果が得られたものの,ペプチドの水溶性の低さのため,定量的な評価はできなかった。そこで,上記のプロセスで得られた水酸化クロム沈殿を3回繰り返し水洗し,蛍光顕微鏡で観察した。その結果,ネガティブコントロールと比較して高い蛍光が検出されたが,その蛍光強度は微弱であり,明確な結合を示唆する結果を得ることはできなかった。また,この蛍光標識ペプチドをプローブとして,実際にCCA処理した木材を対象としたCCAの局在性の調査も併せて行ったものの,本実験においてもCCAに由来する明確な蛍光は観察されなかった。以上のことから,選抜されたペプチドの水溶性の増大もしくは新たなペプチドの選抜が必要と考えられた。したがって,次年度では,これらの問題を解決する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施してきた水酸化クロムを対象としたスクリーニングでは,本研究課題の目的にかなうペプチドが選抜されてこなかったことから,平成25年度では新たな戦略をとることとした。すなわち,スクリーニングのベイトとして水酸化クロムではなく,実際にCCA処理された木材粉末を用いることとする。具体的には,CCA処理を施していない未処理の木紛を用いてスクリーニングと同様の処理を行い,ペプチド提示ファージシステム中の木紛に吸着するペプチド画分を除去した後,CCA処理された木材粉末をベイトとしたスクリーニングに供する。前者の工程を導入する最も大きな理由は,ペプチドの木材細胞壁への非特異的吸着を防ぐことである。すなわち,これまでの知見により,ペプチドやタンパク質が木材の細胞壁に非特異的に吸着することが知られており,本研究でも同様の現象が起こることが予想される。したがって,スクリーニング工程の前段階において,細胞壁に非特異的に吸着するペプチドを除去することにより, CCA処理材中の無機成分特異的に吸着するペプチドを高頻度で特定することが可能になると考えた。これにより得られたペプチドを,CCA処理木粉に対する結合実験および蛍光顕微鏡による観察に供し,性能評価を試みることで,CCA処理材判別への有用性を評価する。以上の戦略を取ることにより,本年度までに得ることができなかったCCAを特異的に判別することに使用可能なペプチドを見いだしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度までの研究において,【現在までの達成度】欄でも記述した通り,本研究課題の目的にかなうペプチドが,水溶性の問題などで取得できていない事象が起こっている。したがって,次年度において,これまでとは異なる戦略で再度,ペプチド提示ファージシステムを用いたスクリーニングを行う必要がある。さらに,そこで新たに見いだされてきたペプチド配列に対して,人工的なペプチド合成および蛍光標識などを行う必要が出てきている。それに係る費用として消耗品が多く必要であると考えられることから,次年度の予算と併せて,消耗品費として最も多く使用する予定である。
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Research Products
(1 results)