2012 Fiscal Year Research-status Report
セルロースナノファイバーからなる結晶性ハイドロゲルの特性解析と高機能化
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23780185
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阿部 賢太郎 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (20402935)
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Keywords | セルロース / キチン / キトサン / ナノファイバー / ハイドロゲル |
Research Abstract |
本研究は、あらゆる植物細胞壁の基本骨格物質でもある「セルロースナノファイバー」の優れた力学特性を活かして、従来の高分子ゲルとは異なる特異な構造および性質を有する新規材料「高結晶性ナノファイバーゲル」を創製し、その特性解析およびさらなる高強度化・高機能化により、セルロースナノファイバーの新しい分野への応用展開を図ることを目的としている。 本年度前半では、前年度に明らかになったキチンナノファイバーのゲル化についてその詳細なゲル化条件および特性解析を行った。簡潔に言えば、35wt%以上の水酸化ナトリウム処理によりイカの甲等から単離されるβ-キチンナノファイバーから安定なゲルが形成されることが明らかになった。ゲル化機構においても、セルロースと同様に平行鎖構造を有するβ-キチンが強アルカリ処理によりα-キチンへと結晶変態する過程でナノファイバー間が嵌合し連続的なネットワークを構築することに由来すると考えられる。得られたキチンナノファイバーゲルは表面が脱アセチル化(キトサン化)されていることから、医療系材料への応用も期待される。強度においては、キチンの結晶弾性率がセルロースのそれに比べて低いことから、セルロースナノファイバーゲルに比べて弾性率および引張強度も低いが、その分破壊ひずみが大幅に向上され、粘り強い材料であることが示された。 また当初の目的の一つであるセルロースナノファイバーの高強度化・高機能化については、北海道大学のGong先生らのダブルネットワークゲルの手法を参考にゼラチンやグルコマンナンを組み合わせることにより膨潤率および強度の向上が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ナノファイバーゲルは、結晶性ナノファイバー同士の嵌合により連続的かつ強靭なネットワークが形成され、その結果、優れた引張強度を示すことが特徴である。しかし、その一方で、結晶性ナノファイバーの使用はゲルの膨潤度を低下させ、また圧縮強度も低いことが問題であった。しかしながら、ゼラチンやグルコマンナン等の水溶性ポリマーをナノファイバーゲル中に含浸させた後、ゲル化を行うことによりダブルネットワークが形成され、ゲルの膨潤度および圧縮強度が劇的に向上されることが示された。天然由来のナノファイバーゲルを同じく安価で天然由来のゼラチンやグルコマンナンで補強され、また有機溶媒の使用も無いことから低環境負荷の材料であるといえる。 また、当初の予定には無かったキチンナノファイバーからのゲル化についても様々な知見が得られた。結晶性ナノファイバーとして天然に豊富に存在するセルロースおよびキチンから容易に強靭なゲルが作製可能であることは、高分子ゲルの応用の幅を一層広げると考えられる。さらに、キチンナノファイバーゲルにはセルロースにはない特徴が多数示され、例えば、中和時にエタノールを使用することで再生されたキチンの結晶性が劇的に向上することや、温度によってキチン/キトサンの割合が変化することは興味深い知見である。とくに、高温で調製して得られたキトサンナノファイバーゲルは温度やpHに応じて膨潤および溶解するという性質は非常に興味深く今後詳細に検討する必要がある。以上の点において本研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
キチンナノファイバーゲル独自の特性解析および高強度・高機能化を中心に進める。従来、キトサンからゲルを作製するためにはキトサンを希酢酸に溶解した後に中和により凝固する必要があるが、その際に分子鎖は大きく乱れ、結晶性および力学特性は大きく低下する。しかし、本研究においてβ-キチンナノファイバーからNaOH処理を行うことにより、静置条件でのゲル作製が可能となり、配向性の高いキチン/キトサンナノファイバーゲルを得ることができる。脱アセチル化度は温度により調整可能である。このキチン/キトサンナノファイバーゲルは、キトサンの比率に応じて、pHおよび温度に応答して膨潤または溶解性を示すことが示唆された。本年度は、温度により脱アセチル化度を調整し作製したゲルについて、このpHおよび温度の応答性について詳細に調べる。また、前年度と同様の手法を用いて、キチンナノファイバーゲルをキトサンによって補強することでさらなる高強度化を図り、その力学性能を評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
基本的には薬品およびガラス器具類などの消耗品の購入に使用する予定である。主に、グラインダー砥石(使用時に徐々に摩耗するため時折交換する必要がある)やメンブレンフィルター(ナノファイバー水懸濁液の脱水用)、またキトサン等のペア高分子の購入を予定している。
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