2011 Fiscal Year Research-status Report
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23780186
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Research Institution | Miyazaki Prefectural Wood Utilization Research Center |
Principal Investigator |
中谷 誠 宮崎県木材利用技術センター, 構法開発部, 主任研究員 (90433143)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ラグスクリューボルト / 埋め込み角度 / 引抜き性能 |
Research Abstract |
本年度は、ラグスクリューボルト(LSB)の木質部材への埋め込み角度と引抜き性能の解明、そして理論式の構築を目的として各種の実験を実施した。試験体はスプルースおよびスギ同一等級構成集成材を用い、実験は集成材の長さ方向(繊維方向)に対して埋め込み方向を0度から90度まで15度おきに7条件とした。試験体は厚さ30mmとし、ラグスクリューボルトはネジ山直径25mmとした。試験体数は各条件20体とした。LSBを埋め込んだ試験体は、万能試験機により引抜き破壊させることで、引抜き荷重と変位を測定した。実験の結果、集成材の長さ方向に対して埋め込み角度が増すほど、最大引抜き荷重は増加し、すべり係数は減少する傾向が認められた。最大引抜き荷重時の引抜き変位は、埋め込み角度と共に増加する傾向が認められた。この実験結果より、様々な角度に埋め込まれたLSBの引抜き性能が、繊維方向に対して0度方向および90度方向の引抜き性能の値を用いることで、ハンキンソン式を代用して推定可能であることを明らかにした。これにより、今後比較的実験が容易な0度と90度の実験を行うことで、任意の角度の引抜き性能が推定可能となった。また、ネジ山形状の木質部材への影響を明らかにした。既往の研究において、LSBを集成材の長さ方向に対して0度方向に埋め込んだ場合、大きな引抜き力を生じると集成材を激しく割裂させる危険な破壊が報告されていた。そこで、その主な原因の一つがネジ山の形状にあると考え、新たなネジ山形状を2種類開発し、引抜き実験に供した。その結果、従来のネジ山形状に比べ、新たに開発したネジは部材の割裂破壊の発生率を大きく軽減できることを明らかにした。 これらの研究成果は、日本建築学会では「LSB交差挿入接合法の開発」として、また日本木材学会では「大型ネジ接合具のねじ山形状が引き抜き性能に及ぼす影響」として口頭による発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画していた研究の中で、最も重要な課題であるLSBの木質部材への埋め込み角度と引抜き性能の解明について、実験計画通り全ての研究を進めることができた。LSBの集成材への埋め込み角度と引抜き性能について、数多くの部分実験の結果よりその傾向を明らかにした。そして、ハンキンソン式を適応することで理論式を構築した。これにより、研究計画通り、これまで不明であった任意の角度の引抜き性能を予測可能となった。また、研究当初より不安視されていた木質部材に発生する脆性的な割裂破壊について、その発生メカニズムを考察することで、新たなネジ山形状を開発した。この新たなネジ山は部材の割裂破壊の発生を劇的に押さえることを実験により明らかにした。これについては、予想していた以上の成果をあげたと考えている。またこれらの研究成果については、学会(日本木材学会および日本建築学会)において発表を行い、多くの研究者から貴重な意見をいただくことができた。しかしながら、一部の実大引抜き実験では難解な荷重条件により試験体にモーメントが発生したため、想定していた治具が大きく変形してしまい試験体が破壊まで至らなかった。そこで、引抜き角度が0度と90度の実大実験結果と部分実験の結果を再度考察することで、さまざまな角度に埋め込まれたLSBの実大の引抜き性能についても部分実験の結果と同様の傾向を示すものと結論付けた。 以上より,一部実験が行えなかった部分については関連する実験結果からの理論的な考察となったが、本年度計画していた全ての研究計画について想定していた研究成果を得たと考える。また、任意の角度に埋め込まれたLSBの引抜き性能の理論式の誘導、そして引抜き荷重に伴う木質部材の脆性的な割裂破壊を抑制するネジ山の形状の開発については、想定以上の成果をあげたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究がほぼ計画通りに遂行できていることから、来年度は当初の研究計画通り、最適な柱と梁の接合部および柱脚接合部の開発とその性能評価実験、そしてそれぞれの接合部について解析モデルの構築を行いたいと考えている。 接合部の開発とその性能評価実験において、柱と梁接合部は、本年度の引抜き実験結果と接合部を構成する木質部材の寸法から、柱材と梁材へのLSB の最適埋め込み角度を提案し、それぞれのLSB を緊結する接合金物の開発を行う。特に接合部柱側のパネルゾーンについて、予想されるせん断力に対してクロス状に挿入したLSBが抵抗要素として十分働くことを確認し、最適な接合形状の開発を行う。柱脚接合部は、柱材へのLSB の最適埋め込む角度と、基礎と柱を緊結する新たな柱脚金物の開発を行う。そして、それぞれの接合部について性能評価実験を行い、モーメント抵抗接合部としての評価を行う。柱と梁の接合部では梁材頂部を、柱脚接合部では柱材頂部を繰り返し加力して実験を行う。このとき、変位計により接合部の回転変形量を測定し、回転剛性と最大モーメントを測定する。 解析モデルの提案では、実験結果と解析結果の比較検討を行う。これまでの研究において提案されているモーメント抵抗接合部の解析モデルを参考に、LSB の引抜き性能の理論式による推定値と新たに開発した接合金物の剛性から接合部全体の解析モデルの提案を行う。また、各接合部の実験における破壊状況を踏まえ、接合部の耐力について考察を行う。 本研究課題の今後の研究計画としては、来年度において当初の研究計画通り各接合部の開発と性能評価を行い、その解析モデルを誘導することで、再来年度(最終年度)の門型構造の実験と解析、そしてLSB のクロス挿入接合法の設計と施工方法の提案につなげていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は当初の研究計画の通り、(1)接合部実験の物品費、(2)国際学会での研究発表および国内の学会やシンポジウムへの参加に要する旅費として使用する計画である。接合部実験では、柱と梁接合部および柱脚接合部を想定しており、試験体に使用する木質部材と各種接合用金物、そして実験用の治具の購入に使用する予定である。また、ひずみゲージなどの実験の測定に必要となる消耗品の購入も予定している。そして、2012年7月にニュージーランドのオークランドで開催される国際学会WCTE2012に参加するための旅費として使用する予定である。木質構造の世界的な国際学会であるWCTE2012 では研究成果の発表を行い、海外の研究者から本研究に対する意見を伺いたいと考えている。同時に開催国であるニュージーランドに数日間滞在して、木質ラーメン構造の第一人者であるDr.Bryan Walfordをはじめ、木質構造の研究者と会談して、本研究課題に対する情報収集を行う予定である。その他に、本研究課題と関係する国内のシンポジウムおよび学会大会(日本木材学会など)に参加して、研究成果の発信と、研究資料と情報の収集を行うための旅費として、また書物の購入費として研究費を使用していく予定である。
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Research Products
(2 results)