2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23780187
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
横田 慎吾 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30600374)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ネマティックオーダーセルロース / 表面化学修飾 / リビングラジカル重合 / 分子レール / 配向 / テンプレート |
Research Abstract |
生物のボトムアップ的な三次元構造体の構築プロセスにおいては、「足場」の表面状態が重要である。本研究は、セルロースをベースとした新規テンプレート機能材料の創製を目指すものである。特に、分子鎖が高度に配向したネマティックオーダーセルロース(NOC)の精密化学改質による機能設計を図る。本年度は、NOC表面に規則配列された水酸基(分子レール)を接点とした表面開始リビングラジカル重合による化学修飾プロセスの確立を試みた。 リビングラジカル重合の一種である原子移動ラジカル重合(ATRP)法を適用すべく、カルボン酸ブロミドと水酸基とのエステル化によるNOCへのATRP開始基の導入を試みた。X線光電子分光法(XPS)による表面官能基分析の結果、NOC基材表面のセルロース分子鎖において、一つのセロビオースユニットあたりに一つの開始基が導入されていることが示された。すなわち、開始基は表面に露出したC6水酸基のみに導入されており、精密な表面化学修飾による機能設計の可能性が示された。次に、得られた開始基固定化NOC(I-NOC)より、メタクリル酸メチル(MMA)の表面開始ATRPを試みた。接触角測定ならびにXPSの結果より、NOC表面はPMMAにより修飾されたことが示された。反応系内で同時に重合したフリーのPMMAをサイズ排除クロマトグラフィーに供したところ、数平均分子量2万~6万程度、分子量分布1.1程度であった。さらに詳細な分析が必要であるが、比較的狭い分子量分布を有していたことから、I-NOCを出発基材としたMMAの表面開始ATRPに成功したと考えられる。 原子間力顕微鏡観察の結果、各工程において、基材特有の配向は維持されたままでの表面改質が達成されたことが示された。すなわち、本手法は二次元パターンを鋳型として三次元パターンを構築する新規材料設計プロセスへと発展することが期待された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ネマティックオーダーセルロース(NOC)における新規あるいは高度なテンプレート機能の発現を目指し、その独特の分子レール構造を活かした表面改質を図るものである。平成23年度は、NOC表面に配列した水酸基を接点とした表面開始リビングラジカル重合における改質プロセスの確立を目指した。具体的には、NOC表面におけるセルロース分子鎖の水酸基に対して、リビングラジカル重合開始能の付与、メタクリレートモノマーのグラフト重合を試みた。各化学修飾プロセスにおいて、前処理、反応条件、洗浄条件を精査した結果、NOC独特の高度に配向したナノ表面形態が維持されたままでの表面改質に成功した。さらに、X線光電子分光法によって、NOC表面における重合開始剤の置換度を見積もったところ、セロビオースユニット(水酸基6個)に1残基の割合で化学修飾されていることが明らかとなった。セルロース分子鎖の2回らせん対称故に、NOC表面に露出している水酸基はセロビオースユニットあたり1残基(C6位)である。すなわち本反応系において、NOC表面への精密かつ高密度な重合開始基の導入が達成された。今後、開始基導入の密度や選択性について詳細な検討を行うことによって、より精密なNOC表面の構造設計が可能となると考えられる。 以上の成果は、平成23年度において2件の国内学会、1件の国際シンポジウムにて発表済みであり、平成24年度において4件の国内学会、1件の国際会議にて発表する予定(登録済み)である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、ネマティックオーダーセルロース(NOC)の表面開始リビングラジカル重合による精密表面改質プロセスの確立に成功した。今後は、(1)より精密かつ選択的な表面化学修飾、(2)水系反応プロセスへの展開、(3)テンプレートとしての機能解析、を推進する。(1)これまでに、NOC表面のセルロース分子鎖において、C6位の水酸基への開始基導入が示唆されている。今後、反応条件の精査による開始基のさらなる高密度固定化や保護基の付与による低密度化を試み、自在な表面化学設計を図る。これによって、ポリマー鎖のグラフト密度ならびにコンフォメーションの制御が期待される。(2)グリーンプロセスの観点から、非有機溶媒系の反応工程は重要である。本研究に置いては、リビングラジカル重合のモノマー汎用性を活かし、水系反応によるNOC基材の表面改質を試みる。種々のモノマー(イオン性、PEG系、糖鎖系)や種々の銅触媒可溶化剤(リガンド)を用いた反応を検討するが、その配向したNOCのナノ形態への影響について精査する。(3)表面改質NOC基材上における酢酸菌(Gluconacetobacter xylinus)の走行挙動を観察し、分泌されるセルロースナノファイバーと基材表面との相互作用について詳細に検討する。また、無機イオンや炭素ナノ材料、金属ナノ粒子の配向堆積を誘発するテンプレートとしての機能を評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
既存設備に前年度購入設備を組み合わせることによって、研究遂行のベースとなる環境が整い、新規ナノ材料創製に向けた重要な基礎的知見が得られた。次年度の研究費は、上述した推進方策に基づき、主に消耗品費(有機・無機試薬類、生化学試薬類、ガラス器具類、分析機器消耗品など)に充てる。さらには成果公表のための、旅費ならびに学会参加費(登録済:第61回高分子学会年次大会、2012年5月29-31日、横浜;2012 TAPPI International Conference on Nanotechnology of Renewable Materials, 2012.6.4-7, Montreal, Canada;セルロース学会第19回年次大会、2012年7月12-13、名古屋)、論文公表関連費用への使用も計画している。
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