2011 Fiscal Year Research-status Report
クロマグロ仔稚魚の滞在深度と逃避反応行動に関する研究
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23780205
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
福田 漠生 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (50581063)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | クロマグロ / 仔稚魚期 / 鉛直行動 / 遊泳力 / 成長 / 遊泳モデル / 明暗環境 / 魚群行動 |
Research Abstract |
本研究は,行動情報に乏しい太平洋クロマグロ仔稚魚を対象に,行動の発達過程を個体発生に従って明らかにする。特に,鉛直的な移動・行動および,構造物に対する反応行動に着目し,本種仔稚魚の遊泳力の発達過程や,滞在深度を調節しようとする行動の個体発生,および漁具に対する反応行動を成長段階ごとに把握することを最終的なゴールとする。 平成23年度の研究では,クロマグロ仔稚魚の水槽内での行動を,孵化後1日から40日まで成長を追って解析し,仔稚魚の遊泳力および鉛直行動の変化や,光環境が遊泳行動に与える影響を精査した。その結果,クロマグロ仔魚が孵化後3日から自発的な遊泳力を獲得し始め,10日後には鉛直的な位置を調節し始めることが明らかになった。 また,仔魚の魚体密度や鰾の容積,魚体形状を測定し,成長を追ってその変化を調べた。その結果,3日齢に鰾が発生するが,魚体の成長に伴って体比重も増加する傾向が見られた。さらに,発生した鰾が夜間に膨張し,昼間に収縮することから,昼夜で体比重が異なることが示された。 昼夜での遊泳行動に着目すると,遊泳力を獲得した3日齢以降でも,暗い環境では遅く泳ぎ,明るい環境では速い速度で泳ぐ傾向がみられた。これは孵化直後からの一貫した傾向として観察され,光環境が本種の行動に強く影響するものであることを示唆している。 また,これらの行動観察の結果を,魚類の群行動を表現する数理モデルへのインプットデータとし,魚群を形成するために必要な要素(遊泳方向同調,遊泳速度維持,距離調節)の強さを推定した。 上記を実施した平成23年度では,(1)成長による仔魚の行動の違いの把握,(2)形態的特徴の変化の把握,(3)光環境の影響の評価,(4)行動観察データをもとにした数理モデルによる解析方法の提案,の4つが主な成果となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,クロマグロ仔魚の受精卵を充分な量得ることが出来なかったために,研究実施計画通りの行動観察実験は実施できなかった。しかし,バックアッププランに沿って実施された,既存の行動観察映像から仔魚の行動情報を抽出する方法によって,クロマグロ仔魚の行動の発達過程や光環境の影響を評価することが可能になった。23年度に実施出来なかった行動観察の項目に関しても,予備実験については実施し,平成24年度に確実にデータを得ることが出来る体制が整えられている。 また,仔稚魚の外部形態測定は計画通りに実施され,特に仔稚魚の外部形態と,その行動を対比させた結果からは,外部形態もクロマグロ魚群の行動に影響を与えていることが明確に示された。この結果は,査読付き学術誌へ投稿し受理されている。 魚の行動情報を用いた数理モデルの構築とそれによる行動決定因子の推定については,研究実施計画通りに,モデルの構築までは達成されており,予備的な解析もされている。 上述の通り,平成23年度の実施項目によって,クロマグロ仔稚魚の行動の発達過程,および行動に与える光環境の影響の強さについては既に結果が得られている。また,逃避反応行動を把握するために必要な行動観察実験や,数理モデルを用いた行動解析についても,平成23年度の成果をもとに平成24年度には達成される見込みが高い。さらに得られた成果については,査読付き学術誌,関係学会などで既に発表されている。 以上のことから,達成度の区分は(2)おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画では,平成23年度にはクロマグロ仔魚を用いた行動観察実験が実施される予定であったが,受精卵が充分に得られなかったことから,平成24年度に持越しとした。よって持ち越された実験の実施,およびその解析は24年度に行なわれる。それによって,クロマグロ仔稚魚の鉛直的な移動・行動および,構造物に対する反応行動が,成長に従ってどのように変化するのかを明らかにする。また,平成23年度に構築した数理モデルを用いて,仔稚魚の行動が,その魚の体比重,遊泳力,魚群内の他個体,および構造物にどのような影響を受けるのかを定量的に評価する。 これらの結果を統合して解析し,クロマグロが個体発生の過程で"いつから","どのような機序で"自発的な遊泳および鉛直的な位置の調節が達成されるのかを明らかにする。さらに構造物に対する反応行動の強さを推定した結果から,逃避反応行動の成長変化を推定する。 上記の推進方策は,当初の交付申請書に記載されていた計画に対して,平成23年度分の行動観察実験および解析が増えている。しかし,23年度に付加的に得られた解析方法の改善などによって,上記計画を達成することは可能になったと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究実施計画にあった,クロマグロ仔魚を対象にした行動観察実験は受精卵確保の問題があり,24年度に持越しとなった。そのため,平成23年度に使用される予定であったうちの比較的高額な経費(526,250円)が,平成24年度に使用される。このうちの大部分は,行動観察実験が実施される際の旅費(静岡市~鹿児島県加計呂麻島:30泊程度)および実験器具等の消耗品として使用される。 また,平成24年度に取得された行動観察実験データは,フルハイビジョン画質のステレオカメラから得られる動画データであり,大容量のデータ保存機器と,それの解析に耐えうるコンピュータ環境が必要になる。そのための,大容量HD,動画処理ソフトウェア,高解像度モニタおよび高クロック数のグラフィックボードが計上される。 また,行動観察実験に供した個体の組織観察のための薬品類,にも使用される。また,平成24年度は当該研究の取り纏め年度であるため,国内学会,国際学会での成果の公表および,英語での査読付き学術誌への投稿のための予算も計上されている。
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Research Products
(5 results)