2011 Fiscal Year Research-status Report
底棲魚介類の初期減耗要因の解明:再生産期の異なる種の比較によるアプローチ
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23780206
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
児玉 圭太 独立行政法人国立環境研究所, 環境リスク研究センター, 研究員 (90391101)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 個体数変動 / 初期生活史 / 底棲魚介類 / 貧酸素 / 東京湾 |
Research Abstract |
東京湾産シャコの初期生活史特性および初期減耗要因を解明するため、野外調査を実施した。2004年以降の経年変化を調査した結果、幼生密度は2007年と2008年に比較的高かったが、稚シャコ密度は2007年に高く2008年に低かった。この結果は幼生から着底までの生残率が加入量の多寡を規定することを示唆する。着底完了した12月において、生残率が高かった2007年には湾全域に稚シャコが分布していたのに対し、2008年には湾奥に稚シャコがみられなかった。両年の貧酸素水塊の消長を調査した結果、2007年には着底盛期である10月以降に貧酸素水塊の面積規模は小さく11月下旬に解消したのに対し、2008年には10月から11月にかけて湾奥で貧酸素水塊が広域に発生し、11月下旬にも解消がみられなかった。以上の結果は、湾奥における貧酸素水塊の発生時期が幼生の着底盛期と重なったことにより、湾奥への幼生の着底が阻害された可能性を示す。一方、貧酸素水塊の影響がみられない湾南部においても、2007年と2008年の稚シャコ密度には有意差があることから、貧酸素水塊だけではなく餌条件や幼生の輸送経路など、浮遊生活期の生残率に影響する他の要因も精査する必要がある。 シャコ幼生の餌料生物推定のため、ホスト生物の遺伝子を選択的に除外できるPNA-directed PCR clampingの適用可能性を検討した。18S rDNAとITS1を解析対象候補の遺伝子として選定し、シャコについて全長塩基配列を決定した。東京湾内湾部においてシャコ以外の口脚類幼生は見られないため、塩基配列の種内変異が大きいITS1領域ではなく、18S rDNAを用いて他分類群の生物との種判別を検討することが妥当と判断した。現在、18S rDNAについてシャコを特異的に識別できるPNAプローブの設計を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールド調査を予定通り実施し、貧酸素水塊がシャコの初期生活史における主たる斃死要因である可能性を示した。この成果について、平成24年度日本水産学会春季大会において口頭発表を行った。シャコの生活史初期における餌料生物の推定手法の開発については、解析対象候補の遺伝子の検討を行い、シャコの餌生物として可能性がある様々な生物分類群の18S rDNAを増幅するユニバーサルプライマーの設計ならびにシャコを特異的に識別できるPNAプローブ設計のための基礎的知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
・ 東京湾における野外調査 (生物試料採集および環境調査)シャコとマコガレイの幼仔稚の生活史特性と初期減耗要因を解明するため、東京湾において生物・環境調査を行う。シャコ幼稚個体を5~12 月、マコガレイ仔稚魚を1~4 月の期間に毎月採集する。その他の動物プランクトンも採集する。CTD-DO ロガーにより水温、塩分、DO 濃度を測定する。・ 底棲魚介類の生活史初期における餌料生物の推定手法の開発分子生物学の手法を応用し、シャコの幼若個体の餌生物種を定性的に把握する方法を確立する。18S rDNAを解析対象として、ホスト生物の遺伝子を選択的に除外できるPNA-directed PCR clampingを行う。得られた増幅産物をクローニングし、複数のコロニーについて塩基配列を決定する。Web 遺伝子データベースを用いて相同性検索を行い、分類群レベルで餌生物の推定を行う。以上により、シャコの生活史初期における食性を明らかにする。また、浮遊幼生期から着底までの生残率の異なる年について食性の比較を行い、餌料環境が加入の成否に及ぼす影響についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
野外調査と飼育実験の実施に必要な消耗品を購入する。生物試料を処理、測定するための消耗品と試薬を購入する。幼生食性解析のための塩基配列シーケンシングを外注し、その解析費用を支出する。野外採集調査に係る傭船料は、千葉県水産総合研究センターと分担するため、6か月分を支払う。野外採集調査および飼育実験の実施に係る研究打合せを行うための旅費を支出する。得られた研究成果を国内外の学会において発表するため、学会参加費と旅費を支出する。学術論文の投稿に際し、原稿の英文校閲を行う。また、受理された論文については別刷を購入する。
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