2012 Fiscal Year Research-status Report
アレロパシーを用いた水産養殖初期餌料生物の増殖と栄養価の改善
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23780208
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Research Institution | National Fisheries University |
Principal Investigator |
山崎 康裕 独立行政法人水産大学校, その他部局等, 助教 (40598471)
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Keywords | アレロパシー / 水産養殖 / 生物餌料 / 増殖促進効果 / 自己増殖阻害 / 増殖制御 |
Research Abstract |
水産増養殖の現場では、餌料価値の高い微細藻類の大量生産と安定供給が強く求められている。本年度は、二枚貝類に対して高い餌料効果を有するが、高水温条件で培養不良を起こすハプト藻パブロバ・ルセリの増殖改善を目的として、主要な餌料生物として知られる珪藻 Chaetoceros neogracile (キートセロス) のパブロバに対するアレロパシー効果を調べた。また、パブロバ自身による増殖阻害因子の関与の有無を判定した。 キートセロスのパブロバに対するアレロパシー効果を調べた結果、低濃度のキートセロス培養ろ液は高水温 (25℃) 条件下におけるパブロバの増殖を促進し、パブロバの至適培養温度である 20℃での増殖と比較して80%程度まで増殖を改善した。限外濾過や透析などの結果から、キートセロスのアレロパシー物質は、熱に安定な分子量10kDa以上の高分子物質であることが示唆された。また、アレロパシー物質添加の有無によるパブロバの糖及びタンパク質含有量を測定した結果、アレロパシー物質の添加によってパブロバのタンパク質含有量は若干増加したが、糖有量は減少傾向にあった。さらに、海洋細菌の増殖に対するアレロパシー物質の影響を調べた結果、キートセロスのアレロパシー物質添加の有無に関わらず、パブロバ培養液中の海洋細菌の増殖に影響を与えなかった。一方、パブロバ自身の持つ自己増殖阻害効果を調べた結果、自身の培養ろ液濃度に依存的な自己増殖阻害効果が認められた。また、限外濾過や透析などの結果から、パブロバが産生する自己増殖阻害物質は熱に安定な分子量 10kDa 以下の物質であり、高水温時に起こる本種の培養不良への自己阻害物質の関与が示唆された。以上の結果は、高水温環境下における パブロバの増殖改善に有効であり、高い餌料効果を有するパブロバの安定した大量培養技術の開発に寄与できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の特筆すべき成果は、ヘテロシグマのような有害種ではなく、餌料生物として一般的に用いられるキートセロスのアレロパシー物質を用いて数百mLの培養規模でパブロバの増殖を改善させることに成功したことである。また、実用化を考慮した場合にも、パブロバとともに培養される場合の多いキートセロスのアレロパシーを利用する方が、安全性やコストの面からもより効果的であると考えられる。前年度の成果と比較すると、若干培養規模のスケールアップが遅れているものの、キートセロスのアレロパシーによるパブロバに対する増殖改善効果は、前年度実施したヘテロシグマによる増殖改善効果より飛躍的に増殖改善効率が高かった。また、海洋細菌の増殖に対するアレロパシー物質の影響を調べた結果、キートセロスのアレロパシー物質添加の有無に関わらず、パブロバ培養液中の海洋細菌の増殖に影響を与えなかったことから、アレロパシー物質の使用は飼育水の水質悪化の原因にはならないことも確認された。さらに、パブロバ自身による自己阻害物質の産生が明らかになったことから、キートセロスのアレロパシーによる増殖改善に加え、パブロバの培養液から自己阻害物質を除去する技術を開発することにより、更なる増殖の改善効果が期待できる。以上のことから、当該年度の研究成果は、高い餌料効果を持つパブロバの安定かつ大量供給のための技術開発に貢献するものであり、研究はおおむね順調に進展している。 一方、アレロパシーによって増殖が改善されたパブロバの二枚貝に対する餌料効果や脂肪酸組成などをはじめとする栄養価の評価が今後の課題として挙げられるとともに、自己阻害物質の効果的な除去方法についても検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究により、キートセロスのアレロパシーが、二枚貝に対して高い餌料効果を有するパブロバの増殖を改善できることが明らかになったことから、次年度はアレロパシーによって増殖が改善されたパブロバの二枚貝に対する餌料効果を判定する。本課題では、アコヤガイの稚貝に対する給餌試験を行い、アレロパシーによって増殖が改善されたパブロバの栄養評価を行う。給餌試験は、6ウェルプレートを用いて実施し、各ウェルに 3-5 個体になるように稚貝を収容する。毎日に給餌および換水を行いながら飼育し、一定期間飼育後、アコヤガイ稚貝の殻長などの成長と生残率の測定を行う。なお、アコヤガイの稚貝が入手困難な場合は、稚魚などの餌料生物として知られるシオミズツボワムシ (動物プランクトン) を用いて給餌試験を実施し、アレロパシーによって増殖改善されたパブロバの餌料効果を判定する予定である。また、アレロパシーによって増殖が改善されたパブロバの脂肪酸組成などをはじめとする栄養価の評価は、ガスクロマトグラフィー等の分析によって実施する。 さらに、当該年度の研究により、パブロバ自身による自己阻害物質の産生が明らかになったことから、自己阻害物質の効果的な除去方法について検討を行う。本課題では、培養液から自己阻害物質を除去することによる、微細藻類の増殖改善効果を調べる。自己阻害物質は、培養液を活性炭カラムあるいは固相抽出カラムに通液して除去し、得られた試料を微細藻類に暴露する。また、培養期間における微細藻類の増殖は、クロロフィル測定装置 (ターナーデザイン社製) を用いて調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、アレロパシー物質の調製などに使用する凍結乾燥機の真空ポンプ、固相抽出カラム、脂肪酸組成分析用試薬などの消耗品、学会参加費、および英文校閲などに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)