2011 Fiscal Year Research-status Report
農産物における地域ブランド・アイデンティティの創造および伝達方法の国際比較
Project/Area Number |
23780236
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Research Institution | Nayoro City University |
Principal Investigator |
清水池 義治 名寄市立大学, 保健福祉学部, 講師 (30545215)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ブランド・アイデンティティ / 地域ブランド / 地域自然公園 / 原産地呼称管理制度 / フランス / ブルゴーニュ / モルヴァン |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本とフランスとを比較対象として、農産物・食品における地域ブランド・アイデンティティ(BI)の創造および伝達方法と、地域ブランド政策体系との関係性を明らかにすることである。 この目的に沿った2011年度の研究成果は、第1に、複数の地域ブランド政策の分析から期待される政策効果とそのブランド論的位置づけを明らかにした。日本の地域団体商標制度は地域名称を冠した商標権を保護する制度であり、地域産品が特定の地域で産出されたというBIの「属性」を保証する。日本O地域の地域ブランド認証制度は、地域産品がO地域で産出され、かつO地域のイメージに見合った産品であることを担保する制度であり、地域団体商標制度と同様の「属性」、ならびにBIの「フィロソフィー」と産品の「属性」との合致を保証する。フランスの原産地呼称管理制度(AOC)は地域産品が特定の地域で産出されたことを公的に保証する制度だが、それにとどまらず、その産品が他地域との産品とは異なる差別性をもつことも含意している。つまり、BIの「属性」の差別化を可能にする効果がある。フランスの地域自然公園制度(PNR)によるラベル制度は、特定地域のアイデンティティの意識的創出を基礎として、それに見合った産品であることを担保する制度であり、BIの「フィロソフィー」自体の創造と、「フィロソフィー」と産品の「属性」との合致を保証する。 第2に、フランス・ブルゴーニュ地域と日本・O地域を事例に、地域ブランド政策がブランド主体の地域BIの創造・伝達方法に与える影響を解明した。日仏の事例で共通する点は、地域外市場への販売を行う企業ほど地域ブランド認証制度(日)やAOC(仏)に積極的であることである。仏の事例からは、地域のブランド・イメージが弱い地域はPNRで地域内・近郊市場指向、逆の地域ではAOCで地域外市場指向といった違いが見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の達成度を「おおむね順調」とした理由は、第1に、日仏における地域ブランド政策の政策効果の違いを明らかにするという目的がある程度達成されたためである。日本の地域団体商標制度とフランスの原産地呼称管理制度(AOC)は、ともに産品が特定地域で産出されたという「属性」(ブランド・アイデンティティ(BI)における「属性」)を保証する制度だが、後者はその「属性」の差別性をも保証するという点で異なる。また、日本の地域ブランド認証制度とフランスの地域自然公園制度(PNR)によるラベル制度は、前掲2制度と違って、BIの「フィロソフィー」と産品の「属性」との合致を担保する制度である。ただし、後者(PNR)は「フィロソフィー」自体を地域住民の参画を通じて創造するという点で前者と異なる。 第2に、日仏における地域ブランド政策が地域BIの創造・伝達方法に及ぼす影響という目的が部分的に明らかになったためである。地域団体商標制度やAOCといったBIの「属性」のみに関係する政策の場合、企業や農家といったブランド主体のBIは既存の地域「フィロソフィー」や主体独自の「フィロソフィー」にもとづいて、もしくは「フィロソフィー」なしで構築される。日本の地域ブランド認証制度やフランスの地域自然公園制度(PNR)によるラベル制度といったBIの「フィロソフィー」にも関係する政策の場合、所与となった地域「フィロソフィー」に合致するように産品の「属性」が修正されたり、ブランド主体の「フィロソフィー」が影響を受ける可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2011年度から継続して、フランスと日本を事例に、地域ブランド政策がブランド主体の地域BIの創造・伝達方法に与える影響の解明を進める。日本・O地域におけるチーズなど酪農加工業者を対象として、ブランド・アイデンティティ(BI)の創造・伝達方法、地域ブランド政策の活用・影響を分析し、前年度に得られた成果の精緻化を図る。フランスでは、前年度は地域イメージが弱い地域を対象としたが、逆にイメージが強いアルプ地域の地域自然公園(PNR、シャルトルーズPNRを予定)区域を対象とする。特に、この地域ではPNRにもとづくラベル制度と原産地呼称管理制度(AOC)が両立しており、これら両制度の使い分けの実態を解明することで地域ブランド政策がBIへ与える影響が明確になることが予想される。また、前年度調査地域の補足調査も実施する。 つづいて、BIの創造・伝達方法による地域ブランド・イメージの違いを解明する。日本ではO地域内と地域外、フランスではパリ、ブルゴーニュ地域の主要都市(ボーヌ・ディジョン)におけるアンケート・面接調査により、自由連想法・潜在価値連鎖法を通じたブランド・イメージ構造を把握する。対象とするのは、地域そのもののイメージと、特定の地域産品のイメージである。評価軸は、BIと実際のブランド・イメージの合致である。 以上を総括して、日本・フランス間の地域ブランド政策体系の差異により、地域ブランド主体による地域BIの創造・伝達方法の有効性に差が生じるかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上のように研究を推進するために、O地域の地域ブランド主体の現地調査、O地域に関するブランド・イメージ調査、フランスの地域ブランド主体の現地調査、同じくブランド・イメージ調査のために旅費を使用する。また、ブランド・イメージ調査への協力者への謝金、ならびにフランス現地調査に同行する通訳・コーディネーターに支払う謝金が必要である。それ以外に、研究に必要な消耗品を購入する。 次年度使用額が生じた理由は、研究代表者がフランスに渡航する際の航空料金が正規料金より大幅に安価な水準に節約できたこと、コーディネーターを勤めた研究協力者とはフランス現地での合流とし、そのぶんの航空料金を節約できたこと、為替相場の変動による円高進行のためである。生じた次年度使用額を活用して、追加の現地調査を行い、研究成果の精緻化を図る。計画では2012年度のフランス調査は1回を予定していたが、2回とし、ブランド・イメージ調査のための時間を充実させる。
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Research Products
(1 results)