2011 Fiscal Year Research-status Report
農業経営における事業主借入の存立構造と機能に関する実証的研究
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23780243
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
大室 健治 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業総合研究センター農業経営研究領域, 研究員 (70455301)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 事業主借入 / 役員借入金 / 内部資金調達 / 農業法人 |
Research Abstract |
本年度は、稲作の個人経営と法人経営を対象として、内部資金調達(個人の場合は事業主借入、法人の場合は役員借入金)の実態把握、並びに経営展開のなかで内部資金調達が果たす機能について解析した。分析の素材としたデータは、日本政策金融公庫が保有する貸付先の財務データであり、分析方法は、まず現況として2010 年における内部資金調達の規模を把握した(サンプル数は、個人が459、法人が533)。そして2000 年から2010 年までの11 年間のパネルデータを用いてその動向を解析した(サンプル数は、個人が48、法人が33)。 分析の結果得られた知見は、第1に、事業主借入・役員借入金の現状はいずれも多額に達しており、それが一部の農業経営の存続にとって不可欠となっている点である。内部資金調達を行っている場合は、個人と法人ともに総資産に対して約35~40%を経営内部からの資金調達に依存しており、これらの経営においては内部調達資金の存在によって短期と長期の財務安全性を一定水準に保っていることが確認された。 第2は、内部調達された資金は投資だけでなく様々な用途に仕向けられる点である。個人経営と法人経営の両方に見られた自己資本の補完機能があり、また、法人経営の短期財務安全性指標の高さは、役員借入金が運転資金として活用されていることを示唆するものである。 第3は、内部で調達した資金は償還されることがほとんどなく、蓄積し続ける傾向がある点である。パネルデータ解析の結果、これらは返済されず一定額を推移(あるいは特定時期に増加)し続けており、経営者には返済しなければならない資金としては十分に認識されていないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は、農業経営における内部資金調達の実態把握であったが、日本政策金融公庫の協力を得られたことにより同公庫の貸付先農業経営の財務データを利用することができ、それによって内部資金調達を行う農業経営の現況は、総資産に対して約35~40%を内部資金調達に依存していることが確認できた。さらに、2000年以降のパネルデータの解析によって、内部資金調達の時系列の特徴として、減少することはほとんどなく一定額を推移あるいは増加し続ける傾向があることが確認できた。以上の知見が得られたことから、当初の計画通りに研究が進捗したものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後に取り組む課題は、第1に、多額に積み上げられた内部調達資金の源泉の解明である。例えば、事業主やその家族並びに役員における兼業であるか不動産収入であるかといった点の分析であり、このような源泉別の仕向けと償還の側面を解明していく。 第2は、蓄積し続けた内部調達資金がいかなる場面でどの程度の負の影響を及ぼすかの解明である。例えば、経営内部から調達した資金は事業主や役員側から見れば経営への貸付資金となり、それが回収できずに事業主や役員が交代となればその資金は相続財産となり相続税の対象となる。このことが、経営継承や役員交代時に経営の存続を左右しかねない問題になるといった危険性が指摘できる。 以上に挙げた課題の検討については、決算書から得られる情報には限界があるため特定事例のケース・スタディによってアプローチする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は交付申請時の計画どおり使用する。なお、次年度使用額18,175円は研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のため使用する。 具体的には、特定事例の経営展開に沿った内部資金調達の源泉と償還に関する聞取調査を中心としたケース・スタディを行うことから、同一事例に対する複数回の経営調査旅費に使用する。また、事業主借入や役員借入金等の内部資金調達は、わが国の農業経営に限らず世界の農業経営が家族経営で営まれていることを踏まえると、諸外国においても同様の現象が生じていると想定できる。したがって、本研究で得られた知見を国際学会等で発表し、諸外国の農業経営研究者と意見交換を行うことで研究の深化を図れることが期待できるため、そのための諸経費として使用する。
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Research Products
(2 results)