2011 Fiscal Year Research-status Report
乳酸菌による腸管神経・上皮間クロストーク調節の解明と消化管疾病予防への応用戦略
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23780274
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
遠野 雅徳 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所家畜飼養技術研究領域, 研究員 (50547718)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 乳酸菌 / プロバイオティクス / 消化管生理 / 腸管神経 |
Research Abstract |
【目的】ヒトや家畜に激増するストレス性消化管機能障害・下痢の予防改善に向けて、本疾病の一破綻作用点である腸管神経-上皮間クロストークに着目した。プロバイオティクス研究では未解明である「腸管神経との相互作用」の追究により、罹患率が成人の約5人に1人である本疾病に対して、予防に寄与するプロバイオティック機能素材の開発基盤を確立することを目的とした。【成果】齧歯類腸管を用いたUssing chamber法を基盤として、ボルテージクランプアンプによる測定法と乳酸菌刺激のための組織培養法を両立させた。本系には、ストレス電気シグナルモデルとしての電気刺激装置を配備することにより、全腸管神経刺激を実現し、腸管神経-上皮間クロストーク調節評価系(腸管神経活性評価系)の構築に成功した。本系を用いて、乳酸菌の細胞壁成分でもあるL―ムラミルジペプチドによる齧歯類腸管への前刺激を実施し、その後に全腸管神経刺激をしたところ、経時的な短絡電流の顕著な上昇が認められた。また、非活性体であるD―ムラミルジペプチドには本作用は認められなかった。テトロドトキシン前処理による全神経遮断により、短絡電流の上昇が完全に消失したことから、乳酸菌等の微生物由来成分に腸管神経調節作用が認められることが明らかとなった。【意義と重要性】本研究において新たに構築した腸管神経活性評価系により、腸管神経がプロバイオティック効果の新たな作用点として機能している事が強く示唆された。ムラミルジペプチドのDL体により、活性が異なることから、本作用は何らかの局面において、微生物成分を認識するパターン認識受容体(NOD、NLRP等)が関与している事が考えられた。今後、本評価系を有効活用し、腸管神経調節作用の詳細なメカニズム解明と、有益な乳酸菌のスクリーニングを実施することにより、新たなジャンルの機能性食品・飼料の創製に繋がるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初、東日本大震災後の混乱や計画停電等の影響により、必要不可欠な冷凍試薬の導入や理化学機器の納期が大幅に遅延したため、研究進捗状況に影響が認められた。しかしながら、その後、研究推進上の効率化と迅速化により、当初に予定していた本年度の最大目標である腸管神経活性評価系の構築に成功した。また、本系を最大限活用することにより幾つかの新知見を得ることに成功していることから、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、本年度構築に成功した腸管神経活性評価系を有効利用し、本年度明らかにした乳酸菌と腸管神経のクロストーク相互作用について、組織・細胞・分子レベルでの解明を目指す。具体的には、神経・イオンチャネル等の遮断薬と神経伝達物質作動薬・拮抗薬を併用し、調節作用点の薬理学的検討を行う。また、各種パターン認識受容体(TLR、NOD)の作動薬・拮抗薬を用いた同受容体介在性メカニズムの検討を行う。さらに、高い腸管神経調節作用を有するプロバイオティック乳酸菌を選抜することにより、国民の心身の健康増進、家畜の健全育成に貢献する機能性食品・飼料の創成に向けた基礎データの収集を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、当初購入予定であった理化学機器がバージョンアップに伴って価格改定が実施され、廉価で購入可能となった。また、複数業者による市場原理に基づいた価格競争により、当初の導入予定価格よりも低価格での購入が可能となった。また、計画停電等の影響により、品質不安定な冷凍・冷蔵試薬の使用による研究データの誤判断を避けるため、購入予定の幾つかの試薬の購入リスクを回避した。さらに、当初計画通りに進まなかった場合として、協力研究者の所属機関における直接的な共同作業のための旅費を計上していたが、テレビ電話等の交信により本年度は幸運にも解決ができた。以上により生じた繰越金を次年度に有効利用し、必要不可欠な冷凍・冷蔵試薬の購入を迅速に実施し、次年度の成果に結び付ける予定である。また、更なるメカニズム解明に向けた高額試薬購入のための財源として発展的に活用し、当初想定している成果を超える業績を得たいと考えている。当初予定していた次年度の研究費は、交付申請時の計画どおりに使用し、研究計画遂行のために有効活用する予定である。
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Research Products
(2 results)