2011 Fiscal Year Research-status Report
ウシ凍結卵におけるアポトーシス機構の解明と新規の凍結・培養法の開発
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23780278
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
阿部 靖之 山形大学, 理工学研究科, 助教 (80447086)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ウシ / 卵核胞期卵子 / 凍結保存 / ミトコンドリア / 細胞骨格 |
Research Abstract |
これまでウシ卵核胞(GV)期卵子の凍結保存法を開発し,高い体外成熟率および凍結保存GV期卵子由来の産子作出を報告したが,体外受精後の分割率および発生率は無処理(新鮮)のGV期卵子より低く,卵子の凍結保存が卵細胞質内の活性型ミトコンドリア分布に影響を示し,卵細胞質の質的差異が示唆された.そこで本研究では,凍結卵子について活性型ミトコンドリアと関係が深い呼吸量を測定し,機能的差異を解析するとともに,成熟培養液の影響を調べた.また,紡錘体形成能およびアクチンフィラメントの分布を調べ,ガラス化保存による質的低下の要因を解析した. 成熟卵子の呼吸量(×1015 / mol s-1)を調べた結果,新鮮卵子7.09に対し凍結卵子5.81であり有意に低かった(P < 0.05).さらに,活性型ミトコンドリア分布によって均一型,凝集型および減少型に分類し,それぞれの呼吸量を算出した結果,6.75,5.89および6.01であった.しかし,培養液を変更した結果,成熟培養した卵子の呼吸量は新鮮卵子5.03,凍結卵子5.28と同程度であり,活性型ミトコンドリア分布型においても違いは見られなかった.続いて,紡錘体形成を観察した結果,異常であった卵子の割合が新鮮区9.8%に対し,凍結区29.7%と増加していた.また,アクチンフィラメントの分布では,新鮮卵子の多くは卵細胞膜周縁に分布していたのに対し,凍結卵子では凝集し分布していたものの割合が高かった(新鮮区,10.0%;ガラス化区,34.8%). これらの結果から,凍結保存によってミトコンドリアの機能が低下するが,培養液の変更によって凍結保存によるミトコンドリア機能低下が解消できることが示唆された.また,細胞骨格に対する凍結保存の影響が示され,凍結卵子の受精率および発生率を低下させる一因であることが推察された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウシ凍結卵のアポトーシス機構を解明するために,23年度は物理的障害について調べることを計画していた.実際に,呼吸量を指標として凍結処理がミトコンドリアの機能を低下させること,および活性型ミトコンドリアと呼吸量の関係性を明らかとすることができた.また,ミトコンドリアの移動を調節する細胞骨格(紡錘体,マイクロフィラメント)に対し,凍結処理が与える影響を免疫染色法によって示した.さらに,培養液を変更することで呼吸量の低下を解消し得る可能性を示し,23年度以降に計画する凍結保存法の改良に向けて踏み込むことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に実施した「物理的障害の解析」と異なるアプローチとして,凍結処理による遺伝子発現への影響を調べる.新鮮または凍結GV期卵を体外培養し,第一極体を有するMII期卵のみを回収し,マイクロアレイ解析等によって遺伝子発現における新鮮卵と凍結卵の差異を調べ,凍結処理が影響する遺伝子,特にアポトーシスおよびミトコンドリア関連遺伝子を探索する.また,活性型ミトコンドリアの分布形態で分類した3タイプ間で,同様に差異を解析する. 探索した遺伝子について,リアルタイムPCR法等により発現量を測定する.抗体等の有無により可能であれば,免疫染色法による局在,ウェスタンブロッティング法によるタンパク質レベルの解析も行う. また,関連する因子の遺伝子を,これまでのマウス体細胞および胚におけるアポトーシスの研究から推測し,発現量などを調べる.さらに,ミトコンドリアとの関連を調べるためにCox遺伝子群についても解析を進める.加えて,成熟後の新鮮卵および凍結卵について細胞内グルタチオン濃度(細胞質成熟の指標)等を指標として,上記因子と細胞質成熟の間での関連性を調べる.最終的に,23年度の研究と総合し,凍結卵がアポトーシスに至るメカニズムを提唱する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
遺伝子解析にあたり,卵子からRNAを抽出することが必要であるが,限られた卵子から抽出できるRNAは非常に微量かつ不安定であるため,安定して回収するために高速遠心機を購入する(40万円).遺伝子の発現や局在を解析するために,種々の酵素(10万円)および抗体(10万円),プライマー等(5万円)の試薬類と蛍光装置(80万円;ミラーユニットを含む)を購入する.また,本研究の基本となる卵子の凍結および培養に,プラスチック・ガラス器具(2万円)および培養液(3万円)を使用する.さらに,研究成果を発表するために学会参加および学会誌投稿費等として30万円を計上する.
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