2011 Fiscal Year Research-status Report
マウス卵巣にて時計遺伝子群に転写制御される遺伝子の網羅解析
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23780280
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
天野 朋子 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (60388585)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 性周期 / 排卵 / 卵巣 / 時計遺伝子群 / マウス |
Research Abstract |
性周期の正常な回帰には、規則正しく睡眠や食事をとるなどの生活習慣改善の効果が示されるが、性周期と生活習慣との分子的関与は不明である。本研究では、環境の明暗や食事のタイミングに依存して概日周期的に発現する転写制御因子、時計遺伝子群(Per1とPer2)に着目し、これらを欠損したマウスの性周期と排卵のプロファイル、及び雌雄同居時の出産の間隔等の繁殖成績を調べ、さらに卵巣にてPer1とPer2に依存する分子機構の同定を試みた。Per1/Per2欠損マウスの性周期は正常であったが、その出産の間隔は野生型マウスに比べて有意に延長し(35.8±1.8日 vs 32.0±1.0日, P<0.05)、発情期に排卵する個体の割合が低下した(93% vs 50%, P<0.05)。従ってPer1/Per2欠損マウスには排卵が起こらないか、タイミングが乱れ、出産の間隔が延長する可能性が示された。排卵は下垂体に由来するLHサージが卵巣に働いて誘起される。実験の結果、Per1/Per2欠損マウスには野生型マウスとほぼ同等のLHサージが観察されたため、Per1/Per2欠損マウスに観察された排卵の乱れは、卵巣の機能に依存する可能性が考えられた。卵巣にてPer1とPer2に制御される機能を特定する手がかりを得るために、排卵と関わりの深いLhcgrとCox-2の発現を、野生型マウスとPer1/Per2欠損マウスの卵巣の間で比較し、さらに野生型マウスとPer1/Per2欠損マウスの卵巣の間で発現量が異なる遺伝子の網羅的解析も行った。その結果、Lhcgrの発現に大きな差が観察されるとともに、Per1/Per2欠損マウスの卵巣にて発現量が有意に異なる遺伝子が252得られた。本研究の結果は、時計遺伝子群の雌性の繁殖生理への関与と、規則正しい生活習慣が妊孕性の改善を促す可能性を分子的な見地から示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、野生型のマウス卵巣とPer1/Per2欠損マウスの卵巣にて異なる発現を示す遺伝子の探索によって、卵巣機能における時計遺伝子群の重要性を示すとともに、卵巣にて時計遺伝子群に制御される「候補遺伝子」を決定し、次年度に行う、時計遺伝子群に制御される遺伝子の同定へつなげることであった。平成23年度にはすでに、野生型マウス卵巣とPer1/Per2欠損マウス卵巣から得られたRNAを用いたマイクロアレイ解析を行い、発現量に有意な差の見られる252の遺伝子を得た。さらにこれらの252遺伝子について、さらにGO解析や、卵巣で機能する遺伝子を集積したデータベース(Ovarian Kaleidoscope)による解析を行い、このうちの16の遺伝子は、ヒトやマウスで欠損した場合、卵胞の発育や排卵に影響し、妊孕性を顕著に低下させることが示されることを確認した。この結果は、時計遺伝子群の卵巣機能への重要性を示すものである。また次年度は、これらの遺伝子群のプロモーター領域への時計遺伝子群の関与や、これらの遺伝子のタンパク質の卵巣内局在と時計遺伝子群タンパク質との局在の比較などの解析を行う予定である。これらの検討を行う上では、候補遺伝子が10-20程度に絞りこまれていることが必須であるが、我々はすでに16の候補遺伝子の抽出に成功している。以上の理由から、H23年度の検討はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、平成23年度に探索された候補遺伝子のプロモーター領域における時計遺伝子群の関与、並びに候補遺伝子のタンパク質の卵巣内局在と時計遺伝子群タンパク質との局在の比較などを行い、卵巣にて時計遺伝子群に制御される遺伝子の同定を行う予定である。また、これらの遺伝子については、経時的に採取された卵巣での発現プロファイルを解析し、概日周期的な制御の有無も明らかにする。平成23年度には、野生型マウスとPer1/Per2欠損マウスにおける血中LH濃度の検討を行ったが、実験動物施設にて飼育できるマウスの数に限りがあり、十分なサンプルが得られなかった。そのため平成24年度に新たにサンプルを採取し、さらに検討を行う予定である。また十分なサンプルが得られるならば、血中ホルモン測定として、LH濃度のみならず、いくつかの性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の測定も検討したい。この検討のための費用として、平成23年度に交付された研究費のうち、¥337,800を来年に繰り越した。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
プロモーター解析に用いる試薬(細胞へのDNA導入試薬)、並びに物品類(細胞株の購入、培養液・培養用ディスポーザブルディッシュ、ピペットなど)の購入候補遺伝子と時計遺伝子群のタンパク質またはRNAの卵巣内局在の解析に使用する、抗体および免疫組織化学蛍光試薬の購入、またはプローブ作成費用平成23年度から繰り越した血中ホルモン測定の費用(¥337,800)
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[Presentation] 概日時計を欠損したマウスの繁殖生理の解析2011
Author(s)
Tomoko Amano, Juergen Ripperger, Urs Albrecht
Organizer
第104回日本繁殖生物学会大会
Place of Presentation
いわて県民情報交流センター・アイーナ (岩手, 盛岡)
Year and Date
2011年9月15-17日
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