2011 Fiscal Year Research-status Report
ウシ黄体形成を促進する局所の免疫細胞群とその調節機構の解明
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23780288
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
白砂 孔明 自治医科大学, 医学部, 助教 (20552780)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 黄体形成 / 乳牛 / 卵巣 / 免疫機能 |
Research Abstract |
乳牛は妊娠し分娩することで初めて乳生産が可能になり、妊娠成立は"経済動物"である乳牛において重要な事象である。先進国では乳量を重視した育種改良により乳牛の高泌乳化が達成された。その代償として分娩後の母体の免疫機能が大幅に減退し、卵巣機能の異常(黄体機能不全・卵胞嚢腫など)や早期胚死滅が多発した結果、人工授精後の受胎率は40%程度に低下した。分娩後の卵巣機能を正常に稼動させ受胎率を改善することは、酪農家の収支の改善、延いては安定的な食糧供給に繋がると考えられる。申請者はこれまで、好中球がウシ黄体形成を調節する可能性を示すことができたが、免疫細胞は種類・機能ともに多岐にわたることから、多様な免疫細胞群が関与している可能性がある。本研究では、好中球に加えてマクロファージ、リンパ球、樹状細胞の黄体内での局在及び機能を詳細に解析することで、免疫細胞群によるウシ黄体形成の制御機構を解明することを企画した。研究成果から、分娩後の免疫機能減退による黄体機能不全の対応策への展望を得ることを目指す。将来的に、免疫細胞を人為的に制御し、黄体機能・形成不全に陥らない、妊娠可能な黄体が作出されれば、繁殖問題による淘汰牛数の減少や乳生産を介した食の安定供給に貢献できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
黄体形成期における各種免疫細胞及び走化性因子の探索:ウシ黄体形成において、どの免疫細胞が局在し、どの様に黄体内に動員されるのかは全く分かっていない。今年度は、黄体形成段階における免疫細胞及び走化性因子の特定と免疫細胞の黄体内動員機構の解明を目指した。ウシ黄体期を形成期・中期・後期・退行期に分類し、免疫化学染色法を用いて好中球の黄体内局在と変動を検証したところ、好中球は黄体形成期および退行期に多く局在し、中期および後期で少なかった。特に、黄体形成において最も重要である排卵後1-2日目の黄体内で、好中球が多く局在した。好中球の数の変動と同様に、好中球の走化性因子であるインターロイキン8(IL-8)の遺伝子およびタンパク質発現も黄体形成期で高かった。このIL-8は濃度依存的に好中球の遊走を刺激すること、黄体由来血管内皮細胞の血管新生を誘導すること、また黄体細胞からのプロジェステロン分泌には影響しないことを、in vitro細胞実験で示した。一方、黄体細胞に好中球を添加するとプロジェステロン分泌が有意に刺激された。また、好中球の培養上清でも黄体細胞からのプロジェステロン分泌の刺激は可能であった。以上から、排卵直後の黄体は高濃度のIL-8を産生・分泌することで好中球を黄体内に動員し、好中球は黄体細胞との細胞間接触を介して、またはIL-8を含む何らかの液性因子を分泌することで、黄体機能・形成の亢進を促すことが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
黄体形成期におけるマクロファージの検証:初年度で好中球の局在と機能を検証したことに引き続き、炎症や創傷治癒に重要であるマクロファージの局在や機能を検証する。また、炎症型マクロファージ(M1)と抗炎症型マクロファージ(M2)の黄体内での分化機構を検証する。特殊免疫細胞の蛍光イメージング方法の確立:初年度および上記のマクロファージの結果を踏まえ、最も黄体機能促進効果を有する特殊免疫細胞を特定する(好中球やマクロファージを想定)。次段階で特殊免疫細胞の卵巣内移植実験を行い、黄体形成へのインパクトを検証する予定である。移植した免疫細胞と本来存在する免疫細胞を判別する必要があることから、特殊免疫細胞を特定する蛍光イメージング法の確立および免疫細胞処理法を確立する。特殊免疫細胞のin vivo黄体形成効果の検証:特殊免疫細胞を卵巣内に移植することで、特殊免疫細胞がウシ黄体形成(プロジェステロン分泌や血管新生度)を促進できるかどうかを検討する。主席卵胞内に色素DiI結合・活性化型の特殊免疫細胞を直接注入する。対象区として、卵胞に生理食塩水を直接注入する。移植後5日目に、卵巣を割去することで黄体を採取する。実験区の黄体形成では免疫機構が活性化していることが想定され、黄体形成や血管新生に及ぼす特殊免疫細胞の生理的機能を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【消耗品費】各分析に用いる試薬類(遺伝子解析関連、免疫組織化学関連試薬、タンパク解析関連試薬、プラスチック製品、細胞培養)が大部分を占める。次年度は、ウシ生体を用いた実験に取り組む予定であるため、乳牛の飼養維持費(10頭を想定)を計上した。【旅費】毎年の研究成果は、国内外での学術集会での発表(日本繁殖生物学会、アメリカ生殖学会など)する予定であるため、一定の旅費を計上した。【その他】英文校閲費および論文投稿料を計上した。
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