2011 Fiscal Year Research-status Report
神経毒性発現機序におけるMARCKSの関与と神経毒性マーカーへの応用
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23780298
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
白石 光也 鹿児島大学, 農学部, 准教授 (20383656)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メチル水銀 / MARCKS |
Research Abstract |
メチル水銀は,その主要な標的器官である中枢神経系に作用することで神経毒性を発揮するが,メチル水銀による神経毒性の発現機序には今なお未解明の部分が多い.そこで,脳の正常な発育に必須のタンパク質であるMARCKSに注目し,メチル水銀処置による影響を解析した. 神経芽細胞腫由来の培養神経細胞株(SH-SY5Y)にMeHgを処置し,MARCKSの発現量とリン酸化量の変化を測定したところ,メチル水銀による濃度依存的なリン酸化量の増加と,これに引き続く発現量の減少が認められた.このMeHgによるMARCKSリン酸化経路に関わるシグナル伝達分子を明らかにするため,各種シグナル伝達経路阻害薬による影響を検討したところ,細胞外Ca2+キレート薬またはプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬を前処置することによりMARCKSリン酸化が抑制される傾向が認められた.また,siRNAによりMARCKSをノックダウンさせた細胞では,MeHgによる細胞毒性(細胞生存率の減少)が増強されていた.さらに,in vivoにおけるメチル水銀毒性へのMARCKSの関与を明らかにするため,メチル水銀中毒モデルラットの脳におけるMARCKSの変化を検討したところ,脳の一部の部位においてMARCKSリン酸化量の増加傾向と発現量の減少傾向が認められた. 以上の結果から,メチル水銀は培養神経細胞内のCa2+の増加とそれに続くPKC活性化を介してMARCKSリン酸化の増加と発現量の減少を引き起こしている可能性が示唆された.また,メチル水銀中毒モデルラットの脳組織でも培養細胞と同様の傾向が認められ,メチル水銀毒性の発現とMARCKSとの関連性が強く示唆された.さらにMARCKSノックダウン細胞においてメチル水銀による細胞毒性が増強されていたことから,MARCKSは神経細胞の保護に関与している可能性が示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の実施計画である,培養神経細胞株を用いた実験の大部分はほぼ計画通りに実施され,興味深い成果が得られた.一方,「神経突起伸長反応に対する神経毒性物質の影響とMARCKSの関与」については,実験の都合上,次年度以降に実施を延期したものの,次年度に実施予定であった「メチル水銀中毒モデルラットを用いたin vivo実験」を前倒しして実施しており,全体的にはおおむね順調に進展しているものと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
研究全体については,おおむね順調に進展しており,基本的には当初の実験計画に基づき推進する方策である.しかし,一部の実験については若干の例数の追加が必要なものがあるほか,これまでの成果からメチル水銀毒性における細胞内Ca濃度の重要性が示唆された.このことから,前年度からの実験を一部継続するのに加え,新たな実験項目としてメチル水銀による細胞内Ca濃度変化の測定を開始する予定である. メチル水銀中毒モデルラットの脳を用いた免疫組織学的観察は,メチル水銀による特異的な脳障害とMARCKSとの関連を考える上で重要な実験であり,実施を予定している実験の中心として進めていく.一方,モデルラットにおける神経病変の発現や,抗体の特異性などの問題も予想されることから,新たな授乳期メチル水銀暴露モデルラットを作製し本実験に用いることや,モデルラット血小板における解析を進めるなど,実験計画の前倒しを含めて臨機応変に対応する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
使用計画の中心は消耗品であり,当初実験計画に必要な消耗品の他,メチル水銀中毒モデルラットを用いたin vivo実験がの増加に伴う実験動物関連経費などにも使用される.また,免疫組織学的観察のため,複数の抗体の購入を予定している. さらに,これまでに得られた成果を広く公表するため,学会参加の旅費や,論文作成に関わる謝金に対しても研究費を使用する予定である. また、一部実験項目の実施が延期されたこともあり、若干の未使用金額が生じた。これは新たな実験項目である細胞内Ca濃度測定用の試薬購入等に使用する予定である。
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