2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23780303
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長谷部 理絵 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 講師 (70431335)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | プリオン病 / 補体因子 / 神経変性 |
Research Abstract |
スクレイピー持続感染N2a 細胞に補体を反応させると、膜の不安定化が起こり、細胞表面にホスファチジルセリン (PS) が露出する。しかし、形態には変化が見られず、ヨウ化プロピジウム (PI) の取り込みが起こらないことから、細胞死は起こっていないことが示された。同様の現象が初代培養神経細胞でも起こるかを検討するために、今年度はマウス胎仔の海馬および大脳皮質からの初代神経細胞培養系を確立した。培養7日目にスクレイピーChandlerおよび22L株感染マウス脳由来ミクロソームを接種したところ、感染6日目から異常型プリオンタンパク質 (PrPSc)が検出された。同培養系は培養40日、感染33日目まで維持が可能である。PrPSc感染が約60%程度の神経細胞に確認される感染12日目に補体因子を培養メディウム中に加え、PIの取り込みにより細胞死を検討したが、正常感染マウス脳由来ミクロソームを接種したものと差がなかった。細胞表面へのPSの露出を検討するために、Annexin V染色を行ったが、接種したミクロソームに反応してしまうため、現在は接種材料に精製PrPresを用いて検討を行っている。 N2a細胞におけるChandlerと22L株感染では、異なる補体因子が反応する。プリオン株による補体因子の反応の違いが、各株のPrPScと補体因子の結合親和性によるものではないかという作業仮説を立て、検証を行っている。正常マウス血清から補体因子C1qを精製することを試みたが、十分な濃度が得られなかった。そこで、マウスC1qA, C1qB, C1qCをサブクローニングし、293T細胞に発現させ、回収することを試みている。293T細胞に発現させると、各C1qサブユニットは培養上清中に放出されることを確認した。今後はこれらのサブユニットによりC1q複合体が形成されているかを検討し、結合実験に用いる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度では「補体因子はプリオン感染神経細胞に細胞死を引き起こすか」というテーマに対して、(1)初代培養神経細胞の準備、(2)プリオン感染神経細胞への補体因子の暴露と細胞死の検出、(3)補体因子による細胞死に関連する細胞シグナルの解析、という計画を立てていた。(1)に関しては、培養系とプリオンの感染条件を確立した。(2)に関しては、(1)で確立した培養系に補体因子を反応させ、神経変性、細胞死が起こるかを検討した。(3)に関しては、初代培養神経細胞を用いても、補体反応だけでは神経細胞死が起こらないことが示されたため、当初の予定通りに実験を行わなかった。この点に関しては、研究計画を変更する必要があると考えられた。詳細は「今後の研究の推進方策」で述べる。 また、平成24年度で予定している「なぜプリオン株により補体の反応が異なるか」というテーマで用いる補体因子の準備にすでに着手している。当初予定していた正常マウス血清からの精製では、実験に必要な濃度の補体因子を得ることが困難なため、293T細胞での発現系を構築した。以上のことから、研究経過はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初代培養神経細胞でも、補体因子を反応させるだけでは細胞死が起こらないことが示された。プリオン感染における補体因子の役割として、(1)PSを細胞表面の露出することにより、感染細胞のミクログリアによる貪食を促進する、(2)細胞変性のイニシエーターとして働き、神経細胞死誘導因子の作用を補助する、可能性が考えられる。これらの仮説を検討するために、感染マウスの脳より分離したアストロサイトやミクログリアと共培養することにより、神経細胞死が誘導されるかを検討する。感染マウスの脳からのアストロサイト、ミクログリアの分離方法はすでに確立している。アストロサイトやミクログリアは、異なる感染期(感染60、90、120日後)から分離し、最も効率よく細胞死を起こす条件を検討する。細胞死を起こす感染期と起こさない感染期のアストロサイトまたはミクログリアをプロテオーム解析し、細胞死に関与する因子の発見を目指す。 補体因子を発現させた293T細胞の培養上清に放出されたC1qが複合体を形成しているかをNative pageにより確認する。精製したC1qとPrPresの結合親和性をELISAにより比較、検討する。マウスPrPに対するパネル抗体を用いた結合阻害実験を行い、C1qとPrPresの結合部位を特定する。また、補体因子とPrPScの直接結合を証明するために、in vivo の感染材料を用いて免疫沈降を行う。 in vivo のプリオン感染での補体因子の影響を調べるために、C1q, C3, C9に対するshRNAを組み込んだレンチウイルスベクターをプリオン感染マウスに導入する。過去にC1q, C3をノックアウトしても脳でのプリオン感染には影響がないことが報告されているが、一つの因子をノックアウトしても他の因子が働きを補い、影響が出なかった可能性もある。本研究では複数の補体因子のノックダウンによる影響を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度の残金は、会計締め切り後も研究を進行するために物品の購入に使用した(支払いは24年度)。 24年度の研究費の大部分は消耗品に使用する予定である。初代神経培養を用いた実験では、培養試薬やガラスボトムチャンバースライドなどを購入する。感染マウス脳からのアストロサイトやミクログリア分離では、Percoll試薬を使用する。結合実験に使用する補体因子の精製には、293T細胞培養試薬、トランスフェクション試薬、精製に用いるカラムなどが必要である。プロテオーム解析には二次元電気泳動用の試薬を購入する。in vivo の実験では、マウス、飼育用品、動物施設使用料が必要である。 研究成果の発表および研究打ち合わせのために、国外旅費、国内旅費、論文の英文校閲費、論文の別刷り費に使用する予定である。
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