2012 Fiscal Year Research-status Report
犬の炎症性腸疾患の病態解明:粘膜バリアとサイトカインバランスの観点から
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23780315
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大田 寛 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (50431333)
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Keywords | 犬 / 腸炎 / サイトカイン / クローディン / カドヘリン / 粘膜バリア / T細胞 / マクロファージ |
Research Abstract |
まず第一に、当該年度は、犬の炎症性腸疾患症例の十二指腸における細胞接着因子であるクローディン分子とカドヘリン分子の発現解析を行った。発現の解析は、ウェスタンブロット法を用いて、クローディン分子およびカドヘリン分子のタンパク質発現を定量し、健常犬の十二指腸での発現量との比較を行った。その結果、炎症性腸疾患症例犬の十二指腸では、クローディン分子の発現には変化が認められなかったが、カドヘリン分子の発現が有意に低下していることが明らかとなった。これまでに犬の炎症性腸疾患の十二指腸における細胞接着因子のタンパク質発現に関する報告はなされていない。今回の結果は犬の炎症性腸疾患の発症における腸粘膜上皮のバリア機能の変化の一端をはじめて明らかにしたものである。 また、犬の炎症性腸疾患の発症における自然免疫の役割を明らかにするために、炎症性腸疾患症例犬の十二指腸におけるマクロファージ由来の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β、IL-8)の遺伝子発現を解析したところ、健常犬の十二指腸での発現との有意差は認められず、人の炎症性腸疾患の知見とは異なる結果が得られた。このことから、犬の炎症性腸疾患の免疫学的な病態は、人のものとは異なる可能性が示された。また、近年国内のミニチュア・ダックスフントに認められている、大腸の炎症性疾患である、炎症性結直腸ポリープ(ICRP)の結直腸粘膜における炎症性サイトカインの遺伝子発現を行ったところ、すべてのサイトカインの遺伝子発現が上昇しており、特にIL-8の遺伝子発現が顕著に増加していた。そこで、IL-8のタンパク質発現解析を蛍光抗体法で行ったところ、IL-8を産生しているマクロファージが、ICRP症例犬の病変部で有意に増加していることが明らかとなった。この結果から、ICRPの免疫病態は人の炎症性腸疾患と類似した部分があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
犬の炎症性腸疾患症例の十二指腸におけるクローディン分子とカドヘリン分子の発現解析については、予備実験ではクローディン7の発現低下の可能性が示唆されていたが、今回の解析の結果クローディン7の発現に有意な変化は認められなかった。しかし、計画書に記載した通り、同時に他のクローディン分子とカドヘリン分子の発現解析も行っており、カドヘリン分子の発現低下が起こっていることを明らかにできた。また、当初の計画のヘルパーT細胞由来のサイトカインの遺伝子の発現解析に加え(昨年度実施)、マクロファージ由来のサイトカインの遺伝子発現についても追加で解析することが可能であった。それに加え、ミニチュア・ダックスフントの炎症性結直腸ポリープの結直腸粘膜における炎症性サイトカインの遺伝子発現解析も実施することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(最終年度)の計画では、これまでの症例の解析から得られた知見を、試験管内の実験で証明していくために、犬の腸粘膜上皮細胞の初代培養細胞の培養方法を確立していく予定である。本年度末から培養に必要な試薬や機器を準備しており、次年度初めより、計画書に記載した手法で腸粘膜上皮細胞の初代培養を行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用となった研究費については、物品費としてすでに使用済みだが支払いが翌年度となった。
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