2011 Fiscal Year Research-status Report
免疫寛容誘導因子Gpnmbを分子標的とした犬悪性黒色腫の新規免疫療法に関する研究
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23780317
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
富張 瑞樹 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (00552754)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 悪性黒色腫 / 犬 / 免疫療法 / 獣医学 / 腫瘍 / 臨床 / 生体分子 / 免疫学 |
Research Abstract |
犬の悪性黒色腫は、高い転移率と従来の治療法への低い反応性から、罹患動物の予後が悪いことが多い。このため、本腫瘍に対する新たな治療法として数多くの免疫療法の開発が試みられてきたが、それらの奏効率は決して高くない。この原因として、本腫瘍細胞のもつ免疫寛容誘導能が関与しているものと考えられている。そこで本研究では、免疫寛容を解除する新たな奏効率の高い免疫療法を確立するため、私がマウス悪性黒色腫細胞株に顕著に発現し免疫寛容を誘導することを明らかにしたGpnmb (Glycoprotein nmb)蛋白質に注目し、これによる免疫寛容誘導経路の阻害と、ペプチドワクチン療法とを組み合わせた新規免疫療法について検討を行ってきた。平成23年度の我々は、(1)帯広畜産大学動物医療センターに来院した自然発症症例における腫瘍細胞組織サンプルの経時的な採材と免疫学的プロフィールを含めたデータの蓄積、(2)悪性黒色腫細胞株6種を用いた腫瘍関連抗原のmRNA発現定量解析、(3)in vitroにおける細胞傷害活性の評価系の確立、の3つを主要な目的として研究を推進してきた。これらは、(1)においてin vivoにおける腫瘍関連抗原の発現動態を確認するとともに、(2)において「有効な腫瘍関連抗原ペプチドの候補はどれか?」を見極めた上で、(3)の実験系によりin vitroにおける実際の抗腫瘍効果を実証するためのものである。これらの結果を踏まえて、平成24年度にはin vivoにおけるデータの蓄積の継続と、in vitroにおいて実際の抗腫瘍効果がどれほど認められるかを評価していく。具体的には、悪性黒色腫細胞のGpnmbによる免疫寛容誘導経路を特異的な抗体を用いてブロックするとともに、多様な腫瘍関連抗原の発現パターンに対応したペプチドワクチンを用いることで、より奏功率の高い新規免疫療法の開発を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度において、前述の(1)、(2)に関しては達成、継続してきているが、(3)は未達成であり、現在もなお推進中である。(1)自然発症症例におけるデータの蓄積としては、本学動物医療センターに来院した悪性黒色腫症例4例の生検時、手術時における腫瘍細胞組織の採材を行った。また経時的な採材が可能であった症例も含め、これらの末梢血中の免疫学的プロフィールを併せてデータとして蓄積した。(2)一方で、悪性黒色腫細胞株6種に対し、主要な腫瘍関連抗原に対するmRNA発現量を定量し、これらがすべて強く発現していることを認めるとともに、細胞株によってそれぞれの発現パターンが異なることを確認した。このことは、自然発症症例に対する応用の際にも、まずその患者の腫瘍が「どの腫瘍関連抗原を一番発現しているか」を確認する必要があることが示唆された。(3)しかしながら、in vitroにおける細胞傷害活性の実験系の確立に最も難航している。まず、一般にひろく用いられているLDH cytotoxicity detection kit(TAKARA)を用いたところ、腫瘍細胞のみならず、攻撃するはずの活性化Tリンパ球も溶媒中にLDHを放出してしまい、結果として精度の高いデータを得ることができなかった。このため次に、Calceinという細胞染色色素を用いて実験を行ったが(Calcein release assay)、どれだけ染色条件を変更しても、我々の腫瘍細胞株は効率的に染色されなかった。そこで現在は、CFSEという細胞染色色素を用い、フローサイトメトリーを用いて行う実験系の確立を推進している(Nakagawa et al., Biomed res, 2011)。細胞傷害活性の評価系を精度よく確立することは本研究の重要な目的の一つであり、これによって次年度のGpnmbによる阻害、ペプチドワクチンの効果を見極めることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、平成23年度からの継続検討課題である(1)自然発症症例のデータの蓄積の継続を行うとともに、(3)in vitroにおける細胞傷害活性の評価系の確立を目指して行く。これまで(3)においては、犬の悪性黒色腫細胞株と、コントロールとして犬の乳腺細胞株とを対象に行ってきたが、これらはin vitroにおいて確立された細胞株であり、in vivoと比較してMHC抗原や腫瘍関連抗原の発現量が変化しており、本来的に免疫細胞に認識されにくく変化してしまっている可能性がある。また一方で、LDHやCalceinの際に認められたように、染色、反応、検出といった我々の手技の中に問題がある可能性もある。こうした改善点を一つずつ検証し、十分な精度で評価可能な系を確立させることを第一の目的とする。また、細胞傷害活性のもう一つの指標となる溶媒中のIFN-γのELISA測定の系も確立していく。一方で我々は、(2)の結果より、犬の悪性黒色腫細胞の中の腫瘍関連抗原としてとくに4種(gp100、MART1(Melan-A)、TRP2、tyrosinase)をペプチド合成候補とすることができた。これらの蛋白質は悪性黒色腫における腫瘍関連抗原としてヒトやマウスの領域において一般に報告されているものであり、MHC抗原との結合が予測される部位のペプチド領域も実際に使用され、その効果が実証されている。これらを参考にして、犬における各種ペプチドを合成し、ペプチドワクチンとして抗腫瘍効果を増強させる目的で使用する。また同時に、Gpnmbの免疫誘導経路を阻害するため、我々が作製したポリクローナル抗体3種と、市販の抗体2種について、その反応性をフローサイトメトリーにて評価するとともに、細胞傷害活性の系の中に混合させて実際の抗腫瘍効果を検証していく。これに併せて、抗Gpnmb抗体とペプチドワクチンとの併用による効果の検証も行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当研究室において10年来使用してきた遠心機が不調であるため、予算執行可能となり次第、これを新調する(メーカー問わず)。また自然発症症例のサンプル採材、調整に必要な、保存容器、試薬(nacarai tesqueなど)、免疫学的プロフィール作製に必要なフローサイトメトリー用の消耗品、試薬(Beckman Coulter/ BD bioscience)、抗体(Serotec)、さらにmRNA抽出(Nippon gene)、リアルタイムPCRに必要な試薬、消耗品(Roche diagnostics)、核酸電気泳動関連試薬(Wakoなど)を購入する。一方で、細胞傷害活性の系を確立するために、CFSE(Invitrogen)、反応容器(BD Falconなど)、細胞培養関連の消耗品(nacarai tesqueなど)、試薬、またフローサイトメトリー用の消耗品、試薬等の購入。犬IFN-γのELISA kit(R&D system)を購入する。また必要に応じて腫瘍細胞株(犬以外)を購入予定とする。これらと平行して、ペプチド合成(少なくとも腫瘍関連抗原4種+陰性コントロール1種: Sigma Aldrich Japan)、Gpnmb抗体(新規に少なくとも2種購入:Santa Cruz, ABcamなど)、immunoblot用の蛋白電気泳動関連の消耗品、試薬(TAKARA)などを購入する。その他必要に応じてチップ、手袋、ディスポーサブルピペットなどの消耗品、試薬を購入予定とする。また、これらの研究成果を、平成24年度の獣医学会、もしくは獣医臨床病理学会/内科学アカデミーにて発表予定とする。
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