2011 Fiscal Year Research-status Report
イヌ乳腺腫瘍細胞への新規分子標的薬投与による化学療法の臨床応用研究
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23780318
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 学 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (70376606)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 乳腺腫瘍 / 網羅的抗癌剤感受性解析 / 化学療法 / 分子標的薬 / 伴侶動物 / イヌ / ネコ / 乳癌 |
Research Abstract |
平成23年度は、イヌ乳腺腫瘍株6株、ネコ乳腺腫瘍細胞株8株に25種類の抗癌剤投与実験を完了した。その結果、イヌ乳腺腫瘍では高感受性を示す抗癌剤3種類、奏功性を示す抗癌剤8種類および効果の乏しい抗癌剤5種類を見出した。ネコ乳腺腫瘍ではでは高感受性を示す抗癌剤3種類、奏功性を示す抗癌剤8種類および効果の乏しい抗癌剤7種類を見出した。本研究に使用した細胞株のうち、イヌ乳腺腫瘍株3対およびネコ乳腺腫瘍細胞株2対では同一患畜から原発巣および転移巣より細胞株を樹立していることより、同一患畜における原発巣由来および転移巣由来細胞株での感受性の相違を比較した。その結果、イヌ乳腺腫瘍株では、CHM株で6種類、CIP株4種類で、CNM株10種類での感受性の相違を認めた。一方、ネコ乳腺腫瘍株では、FMC株で16種類、FON株で11種類の抗癌剤で感受性の相違が認められた。上述の網羅的抗癌剤感受性試験の結果よりイヌおよびネコ乳腺腫瘍細胞株にて感受性を示す抗癌剤が見出されたことより、特に分子標的薬に着目してその抗癌作用の分子メカニズムを解析した。その結果、標的分子のタンパク量や活性の低下が認められたことより、標的分子への作用が抗癌メカニズムの一部を担うと考えられ、また、これらの分子標的薬は獣医学領域における乳腺腫瘍の化学療法での応用の可能性を示すことができた。さらに、DNAマイクロアレイを用いて各イヌ乳腺腫瘍細胞株での分子標的薬投与における網羅的遺伝子発現を解析し、分子標的薬投与により発現変化する遺伝子群の抽出を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の予定として、"1.分子標的薬投与による細胞増殖抑制試験"、"2.分子標的薬投与による抗癌効果の分子生物学的解析"が予定されていた。1.の研究課題はほぼ完全に達成でき、さらに、分子標的薬以外にも既存の抗癌剤も合わせて増殖抑制効果を検討した結果、分子標的薬よりも増殖抑制効果を示す抗癌剤や、抗癌効果を示すホルモン剤などの有効性も見出すことができ、イヌおよびネコ乳腺腫瘍における網羅的抗癌剤投与による基礎研究における基盤的なデータを得ることができた。2.の研究課題では3種類の分子標的薬に着目してその抗癌効果の分子メカニズムを検討するために、実験により算出したIC50値を参考にして細胞株への抗癌剤投与を行い、タンパクおよびRNAの抽出を行った。抽出したタンパクを用いたアポトーシスマーカーや癌マーカー等の発現変化の詳細な検討は現在継続中であるが、各分子標的薬の標的分子のタンパク量や活性の変化の検討は終了し、実際に分子標的薬がイヌおよびネコ乳腺腫瘍細胞株においても標的分子を阻害することで抗癌作用を示していることが示唆された。また、DNAマイクロアレイを用いた分子標的薬投与による網羅的遺伝子発現変化の解析は一部終了しているが、全体の解析は継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、"臨床サンプルを用いた分子標的薬の臨床応用への可能性の検討"という研究課題で本研究を遂行する予定である。平成23年度にて見出された、イヌおよびネコ乳腺腫瘍への感受性を示す抗癌剤が実際に臨床例にて効果を示すかを検討するために、"臨床乳腺腫瘍症例の初代培養細胞への分子標的薬投与による細胞増殖抑制効果の検討"、および、"乳腺腫瘍症例の切片作成による各分子標的薬の標的分子の免疫組織化学染色による抗癌剤効果の予測"、について実験を行い、イヌ・ネコの乳腺腫瘍細胞への化学療法の臨床応用へと貢献する。乳腺腫瘍の初代培養は東京大学農学生命科学研究科付属ベテリナリーメディカルセンターの協力を得て、外科手術サンプルの供与により遂行する予定であり、すでに供与体制は確立している。サンプルの供与と同時に凍結切片、ホルマリン固定材料、超低温冷凍保存も施し、東京大学農学生命科学研究科・獣医病理学教室の協力の元に、乳腺腫瘍細胞での各分子標的薬の標的分子タンパクやリン酸化を検討することで各分子標的薬の効果の有無を予測し、実際の細胞増殖抑制試験と比較する。これらの一連の研究結果より、その相関の有無を検討することで実際の臨床症例における抗癌剤の効果予測系の確立の基礎的データを得ることが可能であると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の使用計画としては、基本的に申請書類の消耗費の詳細で示した計画に添う予定である。まず、臨床症例を用いた分子標的薬投与実験により、分子標的薬、細胞増殖アッセイ用試薬等とともに癌組織初代培養用の試薬・機材が必要となる。また、同研究に関連して、分子生物学的解析を行う際に、RNAおよびタンパク抽出試薬や、網羅的遺伝子発現解析用のDNAマイクロアレイチップおよび関連標識試薬、タンパク発現解析用試薬を使用する予定である。分子標的薬効果の予測系の確立のために、症例サンプル保存用試薬、免疫組織化学染色用試薬および抗体が必要となる。さらに、国内外での研究成果の発表および学術雑誌への研究成果の論文投稿に関する費用が必要になると考えられる。
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