2012 Fiscal Year Research-status Report
乾燥地の天水コムギ栽培における種子ハードニングの作用機構解明と適正技術開発
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23780338
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
辻 渉 鳥取大学, 農学部, 助教 (60423258)
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Keywords | 乾燥ストレス / 種子予措 / コムギ / 乾燥地農業 / 適正栽培技術 / 国際情報交流 / シリア:中国 |
Research Abstract |
作物が乾燥ストレスに対して最も感受的な生育段階は出発芽期である.乾燥地は播種期の降雨が不安定であるため出発芽や初期成長が抑制されることが多く,天水農地における減収の主要因のひとつとなっている.これに対し,播種前に種子を一度吸水させてから再乾燥させる「種子ハードニング」とよばれる種子予措を行うと,乾燥土壌下における出発芽が向上することがコムギなどの作物種で明らかにされている.しかし,その向上程度の品種間差異やメカニズムは十分に解明されておらず,向上効果を最大化する手法も確立されていない.本年度は由来の異なる様々なコムギ品種を対象に「種子ハードニングによる出発芽向上の効果に遺伝的な差異はあるか」を明らかにすることを主目的として以下の実験を行った. 昨年度明らかにした,種子ハードニングによる出芽率向上効果が著しく異なるデュラムコムギ2品種を乾燥土壌に播種して初期成長に与える影響について調査した.その結果,種子ハードニングの処理効果が高い品種では,処理個体のほうが無処理個体より有意に高い光合成速度,草高,根長を示したが,処理効果が低い品種では処理間差異はみられなかった.次に,国際乾燥地農業研究センター(ICARDA)が開発したパンコムギの合成六倍体派生3系統およびシリア在来の耐乾性1品種について,乾燥土壌における種子ハードニングの出芽率向上効果を調査したところ,いずれの系統についても顕著な処理効果は認められなかった. さらに,種子ハードニングによって乾燥ストレス下におけるコムギ収量が増加するかを検証するため,乾燥地の現地圃場における栽培実験を行った.中国科学院 遺伝および発育生物学研究所 農業資源研究センターにおいて,パンコムギ8品種を天水栽培した結果,いずれの品種においても種子ハードニングによる地上部乾物重,子実収量, 収量構成要素,収穫指数の増加は認められなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コムギ起源地の周辺地域から収集した遺伝的に多様なデュラムコムギ品種を用いた実験においては,「種子ハードニングによって乾燥土壌下での出発芽が向上する」という効果が全供試品種で認められ,処理効果が高い品種は初期成長においてもその効果が持続することを明らかにした.しかしながら,遺伝的背景が同じパンコムギの合成六倍体派生3系統と戻し交配親品種を用いた実験では,種子ハードニングによる顕著な出芽向上効果がみられず,次の研究段階である「種子ハードニングによる出発芽向上のメカニズム」と「種子ハードニングによって特異的に発現する遺伝子の解明」という課題を進めることが出来なかった.本年度はこの遅れを取り戻すべく,新たな材料も加えてこの2課題を実施するとともに,「種子ハードニングの効果を最大化する手法の開発 」についても同時並行して研究を進める.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に実施した実験では,種子ハードニングの効果に関する遺伝的差異は一定ではなかった.今後はこれらを追試して再現性を確認するとともに,新たな材料を加えて研究を進める.これにより遺伝的差異が認められたら,効果が高い系統と低い系統を選抜して以下の①と②の実験を,認められない場合は以下の③の研究を進める. ①種子ハードニングによる出発芽向上のメカニズムの解明:種子ハードニングによる出発芽向上のメカニズムとして,これまでにα-アミラーゼ活性の向上による貯蔵デンプンの分解促進などが報告されているが,乾燥土壌における出発芽との関係は明らかでない.本研究では上記の要因に加え,α-アミラーゼ活性に作用するジベレリンの影響などについても検討する.さらに以下の②で同定する遺伝子のホモロジー検索を行い,その結果に基づいて関与する形質を推定し,これについても検討を加える. ②種子ハードニングによって特異的に発現する遺伝子の同定:種子を再乾燥させるプロセスにおいて耐乾性増強に関与する特異的な遺伝子が発現すると考えられる.本実験では,遺伝的背景が同じ系統を材料にしてSSH法を用いて候補遺伝子を差次的に抽出し,その後RT-PCRもしくはノーザンブロット法により関連する遺伝子を単離することで,効果が高い品種で特異的に発現している未知遺伝子を同定する. ③種子ハードニングの効果を最大化する手法の開発:予備実験の結果,種子の発芽プロセスをどの段階まで進行させるかが種子ハードニングの技術開発にとって重要であることが明らかとなった.発芽は種子中の含水率が閾値を超えると開始するが,その吸水速度は温度と時間によって決まる.そこで本実験では,まず種子ハードニングの効果を最大化する含水率を明らかにしたうえで,この含水率と温度および時間との関係を明らかにする.これにより各温度における最適な浸水時間を解明し,実用化に結びつける.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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