2011 Fiscal Year Research-status Report
土壌中の疎水性有機化学物質の存在形態解析に対する新たなアプローチ
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23780342
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
村野 宏達 名城大学, 農学部, 助教 (00570798)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 土壌 / 吸着 / 残留性有機汚染物質 / ディルドリン / 腐植 / フミン酸 / フルボ酸 |
Research Abstract |
疎水性有機化学物質は、土壌に強固に吸着される。また、土壌中における存在時間が長いほど、土壌により強固に吸着されるようになり、生物が利用しにくくなる。しかし、土壌中で30年を超えて残留するこれらの物質が、作物中から残留基準値を超えて検出され問題となっているが、30年を経過し、土壌に強固に吸着されboundresidueになっていると考えられる疎水性有機化学物質がなぜ植物に吸収されるのかは未解決のままである。本研究では疎水的有機化学物質の代表としてディルドリンを用いて、これらの疎水性有機化学物質の土壌吸着と土壌溶液への溶解に注目してこの問題の解決に取り組んだ。はじめに、バッチ法によりディルドリンの土壌への吸着を概観することとした。物質の土壌吸着実験は通常、固:液比=5:1で行う。しかし、ディルドリンの土壌吸着力は非常に強いため、この比率では、ほとんどのディルドリンが土壌に吸着されてしまった。そこで、固:液比を検討し、200:1以上の比率が適当であることがわかった。さらに、疎水性の高い有機化学物質の固体への吸着平衡は、固体成分によっては、数週間から数か月におよぶことがわかっている。そこで、吸着平衡に達する時間を検討したところ、本研究の目的を達成するためには、24時間で適当であることが明らかとなった。ディルドリンの主な土壌中の吸着成分は、腐植だと考えられるため、土壌からフミン酸、フルボ酸およびヒューミンを抽出し、未処理土壌へのディルドリンの吸着とこれらの腐植へのディルドリンの吸着を比べることとした。その結果、未処理土壌への土壌吸着はヒューミンへの土壌吸着よりも強く、フミン酸やフルボ酸がディルドリンの吸着にヒューミンよりも大きな役割をはたしている可能性が示唆された。今後、これらの腐植のディルドリンの吸着に対する寄与率を調べ、土壌中における疎水性有機化学物質の動態を明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、初年度には各腐植物質(フミン酸、フルボ酸、ヒューミン)のディルドリンの土壌吸着に対する寄与率を調べ終える予定であった。しかし、未処理土壌とヒューミンへのディルドリンの吸着の違いを比べるに留まった。その原因は、腐植物質の抽出および吸着実験系の確立に時間を要したことにある。本研究では、腐植物質の違いがディルドリンの吸着機構に果たす役割を調べる。そこで、通常よりも多量の腐植を土壌から抽出する必要があり、計画していたよりも多くの時間を要した。また、疎水性有機化学物質の研究は、その環境中や作物への残留を取り扱うため、もっぱら各媒体からの抽出操作によって行われる。しかし、本研究では、土壌中での動態を明らかにすることを目的とするため、添加実験によって行うため、その実験系を確立するために試行錯誤を必要とし、系の確立ために時間を要した。そのため、計画していた各腐植のディルドリンの土壌吸着への寄与を明らかにすることからやや遅れ、初年度は、無処理土壌とヒューミンへのディルドリンの吸着の違いを比べるところまでとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者である研究室に所属する大学院・学部生とより緊密に研究の進捗状況、情報の共有、意見交換を行い、研究を推進し、得られた成果を学術雑誌への公表のほかに、学会、シンポジウムの発表を中心に発信するよう努める。はじめに、初年度に引き続き、バッチ法により、フミン酸、フルボ酸およびヒューミンのディルドリンの吸着に対する寄与率を調べ、どの画分がディルドリンの吸着や溶解に寄与しているかを明らかとする。その後、カラムリーチングおよび分子ふるいによって、植物が吸収しやすい土壌溶液中のディルドリンの存在形態を精査する。カラムリーチングでは、ディルドリンを添加した担体をカラムに詰め、水溶液、各種腐植物質を溶解させた溶液をこのカラムに通すことによって、それぞれの溶液のディルドリンの溶解力を判定する。また、ディルドリンと水溶液および各種腐植物質を溶解させた溶液を分子ふるいに通すことで、腐植物質のディルドリン溶解に与える影響を知る。これらの研究を進めることによって、これまでの考え方では説明できない、30年を超えて土壌中に残留する疎水性の有機化学物質の土壌中での動態を明らかにし、現在、問題となっている残留性有機汚染物質の作物残留の問題などに貢献していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の研究費の執行に当たっては、1,428円の残額が出た。わずかな差ではあるが、申請した研究費と差が出た。最終年度の平成24年度にあっては、研究推進のため、より適正かつ適切な使用に留意する。
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