2011 Fiscal Year Research-status Report
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23780343
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Research Institution | Gifu Prefectural Research Institute for Forests |
Principal Investigator |
上辻 久敏 岐阜県森林研究所, その他部局等, 専門研究員 (90455527)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 白色腐朽菌 / リグニン分解酵素 / 固体培養 |
Research Abstract |
木質バイオマスは循環利用できる資源として注目されており、様々な変換利用のプロセスが検討されている。木質バイオマスを酵素糖化して変換利用する際には、多糖類の回りに存在するリグニンが妨げとなり、効率的に変換するためには何らかの前処理が必要となる。白色腐朽菌は、他の生物にはみられない特殊なリグニン分解能力を有し、リグニンを対象とした前処理への応用が期待されている。しかし、産業利用にむけて分解速度が遅いことが欠点である。この原因の1つとしてリグニン分解の鍵となる分解酵素の生産性が低いことが考えられる。白色腐朽菌のリグニン分解は、菌体外で行われることからリグニン分解関連因子を特定し、大量に生産することで人工的に分解系を再構築することができれば菌の遅い生育とリグニン分解因子生産から切り離すことができ、リグニン分解の効率を格段に上昇させることが可能と考えられる。本研究では、リグニン分解の律速因子と考えられる白色腐朽菌の低いリグニン分解酵素の生産性を人工的に補うべく、固体培養から選定した酵素生産能力の高い菌株を用いて、固体培養でリグニン分解酵素を大量に生産し回収する系の開発を目的としている。固体培養は生産物の取扱いについて液体培養に劣る部分もあるが、培地と菌体の割合が一定な均一系を作ることができ、菌体に悪影響を与えずにスケールアップできる可能性が高い。前年度は、小規模の培養系において選定菌株のリグニン分解酵素の生産量を増大させることを目的に培地添加物などの培養条件を探索した。培養期間の短縮については、初期段階の6割程度であるが、リグニン分解酵素の生産量を高める因子が数種判明したことからリグニン分解酵素の生産量を高めることに成功した。また、選定菌により生産されるリグニン分解酵素の分離精製を試み、部分精製段階では、多機能型のリグニン分解酵素である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の研究計画の主な試験項目である小スケールの固体培養系でリグニン分解酵素の生産量を増大させる添加物や培養条件の試験を行い、酵素生産量を高める因子を数種特定することができた。試験から導き出された条件を用いて、実際の培養系において生産されるリグニン分解酵素量が増大する結果を得ることができている。培養条件や接種方法の検討から特に培養温度が、酵素生産量や培養期間に大きく影響することが分かった。この結果をもとに、次年度、培養のスケールを拡大する試験を行う。培養系検討の基礎となるデータをとることが完了し、選抜菌の酵素生産に大きく影響した培養温度などは、スケールを拡大しても同様の効果を得ることができる可能性が高いと考えている。また、生産されているリグニン分解酵素の部分精製を試みた結果から固体培養系に生産されているリグニン分解酵素が多機能型のリグニン分解酵素である可能性が高いことがわかり、白色腐朽菌のリグニン分解酵素の研究において、近年発見された多機能型のリグニン分解酵素の生産が固体培養で高まる事例は報告されておらず学術的にも新たな知見が得られる可能性がある結果を得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
液体培地を用いた白色腐朽菌の培養系をスケールアップする従来の研究では、選抜時に得られた小スケールの培養系において観測された培養液当たりの酵素生産量を維持したまま培養系をスケールアップできない場合が多い。この原因である糸状菌の液体培養では菌体が沈み、培養液を循環させると菌体が切れるなど悪影響が発生する問題点を解決するために、本研究では、酵素の生産性に優れた菌株を固体培地から既に選抜を行い、固体培地でリグニン分解酵素生産能力の高い菌株を試験に用いている。固体培地は、液体培地と異なり、培地と菌体の割合を一定にすることが可能であり、菌体に悪影響を与えずにスケールアップできる可能性が高いことから、前年度、小スケールの固体培養系における研究から導き出すことができた培地添加物と培養条件の結果をもとに、今年度、リグニン分解酵素を大量に生産できる培養系を拡大していける可能性が高いと考えている。また、液体培地と比較して固体培地の劣る点である培地中に生産された生産物である酵素の取扱い性が悪い点を改善するために、固体培地中に生産されたリグニン分解酵素を失活させることなく回収する条件について研究項目としている。前年度の研究から、リグニン分解酵素が菌体外に生産されていることやリグニン分解酵素の部分精製を行い、現在、固体培養系に生産されている酵素の性質が、温度について安定であることが分かってきたので、今年度、リグニン分解酵素の性質にあった回収方法を研究し、リグニン分解酵素の生産系の開発を目指していく方策である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)酵素生産系のスケールアップについて検討する。前年度決定された培養条件で、酵素生産量を維持したまま培養規模を拡大できる培養規模の検討。培養規模拡大にともなう菌の接種方法を検討し生産期間の短縮化をはかる。また、生産された培地から部分的に酵素の抽出・分離を行い、経時的に酵素活性を測定することで効果を評価するために使用する培養試薬や分析試薬類を購入する。2)固体培地からの抽出条件の検討粗酵素の抽出時に予想される各種条件下でのリグニン分解酵素の活性残存量を測定し、分解酵素の安定性を評価する。拡大した培養系で得られた酵素で、酵素の温度耐性、安定pHについて諸性質を調べ、抽出液に含まれる目的のリグニン分解酵素を効率よく抽出するための条件を決定するために使用する試薬類を購入する。これまでの酵素の濃縮に関しては、温度をかけずに限外濃縮を行うことが多かったが小型の培養系において生産されるリグニン分解酵素は、温度に対して比較的安定であることが確認されたので、エバポレーターによる濃縮を中心に検討する。濃縮後の残存活性から条件を評価するための試薬類を購入する。また、それぞれの培養や測定に用いるガラス容器や樹脂容器についても購入する。さらに2年間で得られた結果について取りまとめ、成果の発表に必要な旅費に使用する計画である。当該研究費が生じた状況(研究経費の残額が生じた理由)所の規程で、銀行振込による支払いしか認められておらず、残金が、振込手数料以下となった時点で年度内に残金の支出が、不可能となった。基金分では、繰越しが認められていることから、今年度、前年度の残金を培養試薬の購入にあてることとなった。
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